定期的に話を聞きたくなる棋士がいる。私にとって行方尚史九段(49)はその筆頭だ。豊かで鋭敏な感性と卓抜した言語化能力で、対局の内容や自分の心情を鮮やかに提示してくれる。順位戦最高峰のA級に6期在位した行方は、いまの自分の将棋をどう見ているのだろうか。
初夏の午後、将棋会館の外のベンチに腰掛けた行方は「うーん」と一呼吸を置いてから話を始めた。
「満足はしていません。年度末に負けすぎてしまって、今の自分のポジションを再認識させられました。NHK杯の連続出場も途絶えてしまったし」
行方の昨年度の成績は17勝17敗の指し分けだった。波に乗れそうな瞬間もあったが、「そこでまた躓いて、浮き沈みを繰り返している間に埋没してしまった」と述懐する。
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photograph by Kanta Yokoyama(Illustariton)