平凡な監督にして非凡なコーチであり、おそるべき打者であった。
中西太、死す。享年90。
1952年。西鉄ライオンズに怪童が現れた。名のごとく太くたくましい尻。ブンと空気を揺らすスイング。香川の高松第一高校から入団、たちまち111試合出場を果たして新人王を獲得する。
本塁打王が5度。首位打者は2度。打点王には3度。そんな分厚い記録の意味はもはや薄い。イメージが数字を覆い尽くすからだ。
四国に生まれた力自慢が九州の暴れん坊球団で打ちまくった。
ショートが跳んで捕ろうとした打球が外野席へ消えた。強振のファウルチップのあとに焦げた臭いが漂った。細かな真偽はどうでもよかった。中西太はニッポン野球列島の民間伝承なのである。
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photograph by Bungeishunju