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元「野武士球団」投手が記す、西鉄3連覇伝説の回想録。~豊田泰光、稲尾和久、中西太に囲まれて~

2015/10/21

 高卒の新人投手がキャンプに芸者を連れてきた。著者にはそんな伝説がある。実話だ。昭和28年(1953年)、著者は創設3年目の西鉄のキャンプ地、呉に乗り込んだ。宿舎では口うるさいベテラン3人と相部屋にされ、毎日いびられた。「どうせいじめられるのなら、派手に一発ぶちかましてやれ」。契約金の100万円を見せて仲良くなった福岡の芸者を呼びよせ、これで勇名をはせた。それから6年、昭和33年(1958年)、3連敗の西鉄が稲尾和久の4連投で巨人に4連勝する驚異の逆転劇で日本シリーズ3連覇を果たすまでの回想録。


 著者の同期には豊田泰光がいる。態度がでかくて打撃には自信満々の水戸っぽだ。3年後輩(高校でも)が「神様、仏様、稲尾様」、豪打の中西太に天才打者・大下弘が大黒柱……と“役者”がそろい、それを束ねるのが魔術師・三原脩監督。こんな猛者たちのグラウンド内外の行状記を著者は自分の投球テンポそのままに軽快に綴った。打者を恐れさせた内角を鋭くえぐるシュート並みの観察眼で何でもあけすけに。ベンチの小窓から観客席の女性のスカート内の覗き見、連日の朝帰り。三原監督の人たらし術の憎いばかりの巧妙さ。ほめられれば悪ぶり、けなされれば一丸となって相手チームを蹴散らした。「野武士球団」と呼ばれた所以だが、選手の回想録に付き物の自慢話の臭みがないのは、中心投手でありながら著者の自己軽視の姿勢からだ。

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photograph by Sports Graphic Number

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