まず自分が過去に書いた原稿の誤りを訂正したい。プロ野球にビデオ判定の導入が論議され出した頃、反対の立場だった。というのも「審判の権威」が失墜する可能性があると思ったからだ。野球のルールブックでは「審判員の判断に基づく裁定は最終のもの」と権威づけられ、“誤審”という概念はない。
そこでよく引き合いに出したのが、シアトル・マリナーズ時代のイチローさんとのやりとりだった。
2006年の第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本対米国戦。同点から日本が犠飛で勝ち越し点を奪ったと思われた直後、米国側の抗議にボブ・デービッドソン球審が「三塁走者のタッチアップが早かった」と裁定し、得点は取り消された。後にそのことでイチローさんに「あの“誤審”が……」と言った瞬間、「“誤審”ではありません」と正された。そういう人間的なものも含めての野球であり、ビデオ判定の導入は、そこを失わせるのではないかと危惧したからだった。
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