#1008
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佐々木朗希と大船渡ナインの「未完の物語」《高校野球ノンフィクション》

2026/07/08
2019年岩手大会決勝、大船渡高校・佐々木は登板しなかった
昨年夏の岩手大会決勝。港町の公立校は超高校級のエースをマウンドに送り出すことなく敗れ去り、球界に議論を呼んだ。1年が経ち、佐々木朗希はプロの舞台で来たるべき日に備える。チームメイトもそれぞれのステージに歩みを進めた。誰もが、消せない思いを抱えながら。仲間たちが語る、あの日とそれから。(初出:Number1008号 [あれから1年]佐々木朗希と大船渡ナインの未完の物語。)

 160kmの感触はまだ左手にあるのだろうか。2020年夏、及川恵介はもう捕手ではなかった。丸刈りだった髪が伸びた、東北学院大学1年生だった。

「野球はやめました。去年夏の大会が終わってどこの大学からも話がなかったですし、そんな実力もないかな、と自分で思ったので。迷いは……ないですね、今は……」

 令和の怪物と言われる佐々木朗希とバッテリーを組んだ相棒は、去年のあの試合を最後に野球をやめた。あの試合とは、岩手から全国へ「高校野球とは何か」「甲子園とは何か」を問いかけた夏の決勝戦である。

「あの試合を消化できたという感覚は今もないです。負けたのを朗希が投げなかったせいにするのは申し訳ない。ただ同じ負けでも朗希が出て負けたなら、しょうがないって開き直れたかなと……。大船渡としてベストを尽くしたのかなと今も疑問です」

 1年前は口にできなかった、ひとりの球児としての思いである。

 2019年7月25日。大船渡高校は甲子園まであとひとつに迫っていた。

 まだ原石だった佐々木が「一緒に野球やろう」と呼びかけて集まった地元・気仙地区の仲間たち。野球エリートのいない県立高がエース佐々木の成長とともに、夢へ手が届くところまできた。そして決勝戦で横綱・花巻東に挑む。そんな試合だった。

 ただ、試合前の練習中、メンバーのひとりが言った。『きょう朗希、先発じゃないよ』

「大船渡はホワイトボードにその日のメンバーが書き出されるんです。僕もみんなもそれを聞いて初めて知りました」

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photograph by Asami Enomoto

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