1996年の監督就任以来、22シーズンの長期政権で3度のプレミアリーグ、7度のFAカップ制覇を果たした。それまでのイングランド式フットボールの常識を覆したフランス人指揮官が、アーセナルにもたらしたものとは。
速く、巧みで、しかも美しかった。
智将アーセン・ベンゲルが率いた時代のガナーズである。とりわけ、その黄金期は華麗優美なアタッキング・フットボールを展開し、見る者を魅了し続けた。
ベンゲルの在任期間はクラブ史上最長の22シーズンを数え、計10個の主要タイトルを獲得。うち7つを最初の9シーズンで手にする。まさにベンゲル時代の最盛期と言ってもいい。
事実、3度のプレミアリーグ制覇もこの時代に成し遂げたものだ。うち2回はFAカップとのダブル(二冠)で、残りの1回が歴史に燦然と刻まれる無敗優勝。プレストン・ノースエンド以来、115シーズンぶりの快挙でもあった。
“インビンシブルズ”(無敵の集団)の異名を頂戴したベンゲルの最高傑作だ。それも大金を投じ、当代屈指のタレントをかき集めた成果では、ない。現在もクラブに脈打つ独自の哲学と戦略、何より指揮官の卓抜した手腕の賜物である。
何しろ、ベンゲル以前は「退屈な、退屈なアーセナル」と揶揄されていたほどだ。堅固な守備組織はともかく、攻撃面で見るべきものが少なかった。その退屈な戦いぶりがフランス人監督の下で一変する。就任は1996年10月。プレミアリーグの発足から5シーズン目のことだった。
モナコ監督時代から一貫していたスタイル
現在とは大きく異なり、当時のイングランドと言えば、4-4-2フラット全盛の時代。この陣形は'70年代の後半から'80年代の半ばにかけて栄華を極めた最強リバプールのそれである。他のクラブも追随し、やがてこのフォーメーション一色となった。
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