ジョン・クラカワーといえば『荒野へ』や『空へ』で有名な米国のノンフィクション作家だ。若い頃は先鋭的なクライマーだったこともあり登山や冒険に関する作品が多く、日本でもファンは少なくないと思う。本書はそのクラカワーが若い頃に生活費を稼ぐために書いた文章を中心にした短編集だ。
本人曰く、当時の〈記事の大半は“くず”のようなものだった〉らしいが、そんなことは全然なくて、彼の魅力と実力が存分に堪能できる一冊となっている。
彼の本の特徴は駆動力のある文体だ。ユーモアあふれる巧みな比喩をおりまぜながら実証的に事実をつみあげ、詩情豊かな文章で物事の本質をつく。適度な感情移入も魅力的だ。特に社会からはみ出し、生活をないがしろにして登山や冒険にのめりこむ人たちへの距離感は、彼自身がそうだっただけに見事のひと言につきる。
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