8年前、権田修一は水を運んでいた。ブラジルW杯メンバーに選ばれたものの、出場はなし。試合中にプレーが途切れれば、ベンチを飛び出してピッチ上の選手たちにドリンクを渡し、練習の前後には率先して用具の準備と後片付けを手伝った。
チームはグループステージで敗退したものの、スタッフの誰もが献身性を褒めてくれた。でも、本人は後悔していた。
“8年後の権田”は、こう語る。
「当時の僕はフォア・ザ・チームの姿勢を示すことが自分の役割だと思っていたし、それが素晴らしいとも言ってもらえました。でも、あれじゃあ本当にチームの力にはなっていなかったと思います。あの姿勢で臨んじゃいけなかった。正GKだった(川島)永嗣さんを支える、ではなくて、刺激を与える存在にならなきゃいけなかった。“永嗣さん、しっかりやらないと、俺がポジションを奪っちゃうよ”っていう意識でいないといけなかった。
実際、永嗣さんは控えの立場になった後も、チャンスが来たときのために全力で、100%の準備をしている。そしてスタメンが確定した段階で切り替えて、チームのために尽力する。これって当たり前のようで、すごく難しいことなんです。どれだけ若いGKが出てきても、監督が永嗣さんをメンバーに入れるのは、それだけの価値を示しているから。本当にすごい人です」
森保一監督が日本代表監督に就任し、権田は川島から正GKの座を奪った。カタールW杯のメンバーにも選出され、11月22日のドイツ戦前日、登録メンバーの入れ替えも締め切られた。これで、GKは権田、川島、シュミット・ダニエルの3人でW杯全試合に臨むことが確定した。このとき、下田崇コーチを含めたGKチームは、練習場の一角に集まり、意識を確認し合った。
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