名監督の裏に「家庭の名将」あり。時には夫を凌駕する強烈な個性を放ち、時代に求められた“二人の妻”。彼女たちは一体、何と戦っていたのか。
落合信子と野村沙知代。親愛を込めて、二人を私はノブ&サッチーと呼んでいる。説明の必要もないかもしれないが、ものまねジェットコースターことノブ&フッキーから拝借した。そしてノブフキの十八番といえばぴんから兄弟の『女のみち』である。
1972年に発売された『女のみち』は、愛した男に捨てられ、すがって泣いて、それが「女のみち」だと自分に言い聞かせる、ウーマンリブ旋風が吹き荒れる当時の社会風潮を真っ向から否定する歌詞が続く。'32年生まれの野村沙知代、'44年生まれの落合信子。現役時代は名選手と崇められ、引退後は名将と称えられた夫を持つ二人の「女のみち」は、決して男の足元に泣いてすがるものではなかった。積極的にカメラの前に立って、口下手な夫に代わり翌朝の一面を飾るようなセンセーショナルな文言を放ち、バラエティ番組で家族を語り、社会を斬り、夫操縦術の書籍を出して、球場でドアラの耳をつけ、CMに出て、選挙にも出て、浅香光代と揉める、独特すぎる「女のみち」を切り拓いてきた。地味だった二人の男を「売れる男」に仕立て上げたのは、この二人の力である。
長らくプロ野球選手の妻は表に出てこないことが美徳とされてきた。そんな裏方だったはずの妻がここまでメディアに持て囃され、野球ファンのみならずその名とそのキャラが知れ渡ったのはなぜなのだろうか。だって歴史上で二人だけである。夫の範疇を超えて、愛されたり憎まれたりしてきた、そんなプロ野球選手の妻は。
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photograph by Masahiro Nagatomo / SANKEI SHIMBUN