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[みんなの読書感想文]私は『嫌われた監督』をこう読んだ

2022/09/10
「週刊文春」での連載時から大きな話題を呼び、書籍としては史上初となるノンフィクション賞三冠を達成。監督時代の落合博満。その真実に迫った白熱のベストセラーを、各界の第一人者たちはどのように受け止めたのか――。

1:藤浪晋太郎――揺れる心に響いた「定点観測」の大切さ。

Shintaro Fujinami

1994年4月12日、大阪府生まれ。プロ野球選手。大阪桐蔭高から2013年にドラフト1位で阪神入団。'15年最多奪三振、日本代表で'17年WBC出場。

 今年2月の春季キャンプに持って行ったのがこの本。第1章の冒頭で山本昌さんが著者の鈴木忠平さんに声をかけるシーンがあるのですが、その台詞や表情が、僕の知っている昌さんご本人そのもの! そこから一気に引き込まれ夢中になって読みました。第3章の福留孝介さんも阪神時代にお世話になっていたので、手の平のマメをいじりながら新幹線の窓の外を眺める、という仕草も目に浮かぶようで、単純に楽しめた部分もあります。

 落合監督がいつも同じ場所から同じ人間を見ることで小さな変化を見抜く、という「定点観測」のエピソードには、投手としての気づきを得ました。実際に自分も必ず同じ角度からの画像でピッチングフォームを見るようにしていますし、目指すもの、信念という意味での「定点」もしっかり据えなければいけないと感じました。今の僕の「定点」は、今年1月に巨人の菅野智之さんと自主トレをさせてもらったときに助言を受けた軸足の使い方や、下半身主導の投球です。ここ数年、良くない成績が続き気持ちが揺れることも多かったのですが、ブレずに自分の取り組みの中で軸となるもの=「定点」を持ち続けたいです。

 全体を通して印象的だったのは、落合監督が徹底的に勝ちにこだわる姿です。中高生の頃テレビで見ていたドラゴンズはまさにそういう集団で、落合監督にも冷徹なイメージがありました。でもそれを貫いたのにも理由があるんですよね。第5章には、就任1年目の2004年に落合監督が日本シリーズで情に絆され、岡本真也さんを続投させ逆転を許す場面と、'07年の日本シリーズで史上初の完全試合達成を目前に山井大介さんを交代させる場面が対照的に描かれています。もし僕が同じ立場なら、絶対に最後まで投げ切りたい。そこで降りた山井さんはもちろんですが、世論を敵に回しても交代させる決断を下した首脳陣、一人一人が任務を完遂できる組織を作りあげた落合監督が凄いですよね。

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photograph by Wataru Sato

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