移籍1年目のドイツでは悪戦苦闘が続き、確固たる地位を築けていない。一方、日本代表での日々は喜びと充実感に溢れ、自身の成長も実感した。今は強国待ち受けるW杯本大会が楽しみで仕方ないと胸躍らせている。
キラキラと輝いて見えたのは、大きな窓から差し込む春の光に包まれていたことだけが理由ではないだろう。
待ち合わせたホテルのラウンジに姿を現した田中碧は、ソファーに腰を下ろすやいなや、「いいタイミングになりましたね」と笑みを浮かべた。彼がそう語りかけてきたのは、嬉しい出来事があったからだ。インタビューの2日前――。
4月8日に行われたドイツ2部のハンザ・ロストック戦。前半13分、左サイドからグラウンダーのクロスが送り込まれると、ゴール正面で待ち構えていた田中は滑り込んでくるDFを見極めてやり過ごし、右足で合わせてゴールネットを揺らした。
2021年8月20日にデュッセルドルフでデビューしてから7カ月半、待望の初ゴールだった。
「ボールを蹴る瞬間、敵がちゃんと見えていて、落ち着いて決められた。『持ってない』って言い方はしたくないんですけど、こっちに来てからは入りそうで入らないことが続いていたので、ようやく点が取れて、とにかくホッとしています」
日本代表のW杯最終予選でスタメンに抜擢された'21年10月のオーストラリア戦で先制ゴールを決めたように、どちらかと言えば「持っている」タイプのはずだ。にもかかわらず「持ってない」という言葉が出るのは、それだけ苦しんでいた証と言える。
初ゴールと同じくらい田中を安堵させたのは、ゲーム終盤にアシストをマークし、フル出場を飾り、そして何よりチームが勝利したことだった。
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photograph by Shinji Minegishi