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[薄命の快足牝馬]アストンマーチャン&中舘英二「墓前に伝えた万感の思い」

2021/10/08
父アドマイヤコジーン、母ラスリングカプス。栗東・石坂正厩舎。2006年にデビュー。GIII小倉2歳Sを皮切りに、ファンタジーS、'07年フィリーズレビューと重賞制覇。'07年スプリンターズS制覇。4歳の'08年3月にX大腸炎を発症し、4月21日急性心不全で没。通算11戦5勝
大きな瞳に、鼻先へスラリと伸びた大流星。泥んこ馬場の中山を、快足を飛ばし逃げ切った。異次元の走力と、スタートの天才の運命の出会い。あの秋の日の一瞬の煌めき。忘れ得ぬ想いは今も。

 わずか4年余りの馬生を全力で駆け抜けた快足牝馬アストンマーチャン。騎手・中舘英二にとっては13年ぶり、そして最後のGI勝利の相棒となった。

「勝負根性の塊のようなサラブレッドでした。騎手の楽しさ、喜びを再確認させてくれた。感謝しかありません」

 2007年。運命の出会いは一本の電話から始まった。「調教に乗りに来てくれるか」。アストンマーチャンを管理する石坂正調教師から中舘に連絡が入ったのは、GIスプリンターズSの約1カ月前のことだった。

 同年の桜花賞では同期の名牝ウオッカ、ダイワスカーレットと3強を形成。秋に向けてスプリント路線に転向した矢先、これまでコンビを組んできた騎手が騎乗できないことになった。ローカルで実績を積み上げ、石坂厩舎の馬を何度も勝たせてきた42歳のベテランに白羽の矢が立った。

 中舘は1週前追い切りのため、栗東トレセンに駆けつけた。若手時代に訪れたことはあったが、関西馬の調教騎乗のための栗東入りは初めてだった。

「それまでレースをはたから見て“引っかかる馬だな”と他人事のように思っていました。正直、乗りたくなかったですね(笑)。内心ドキドキしながら坂路を1本駆け上がったら、これまで感じたことのないスピード感でした。凄い馬だな、と」

 異次元の速力はまさにスーパーカーの乗り味。手応えと同時に不安も募ったという。

「レースで馬を抑えられるか心配になりましたね。ユタカ(武豊)はよくマイルでこの馬に乗れていたな、と驚きました。ただ、石坂先生から“ハナに行ってもいいよ。お前を乗せるのだから、折り合いを欠くような競馬だけは絶対にするな”と言ってもらって気が楽になりました」

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photograph by Photostud

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