わずか4年余りの馬生を全力で駆け抜けた快足牝馬アストンマーチャン。騎手・中舘英二にとっては13年ぶり、そして最後のGI勝利の相棒となった。
「勝負根性の塊のようなサラブレッドでした。騎手の楽しさ、喜びを再確認させてくれた。感謝しかありません」
2007年。運命の出会いは一本の電話から始まった。「調教に乗りに来てくれるか」。アストンマーチャンを管理する石坂正調教師から中舘に連絡が入ったのは、GIスプリンターズSの約1カ月前のことだった。
同年の桜花賞では同期の名牝ウオッカ、ダイワスカーレットと3強を形成。秋に向けてスプリント路線に転向した矢先、これまでコンビを組んできた騎手が騎乗できないことになった。ローカルで実績を積み上げ、石坂厩舎の馬を何度も勝たせてきた42歳のベテランに白羽の矢が立った。
中舘は1週前追い切りのため、栗東トレセンに駆けつけた。若手時代に訪れたことはあったが、関西馬の調教騎乗のための栗東入りは初めてだった。
「それまでレースをはたから見て“引っかかる馬だな”と他人事のように思っていました。正直、乗りたくなかったですね(笑)。内心ドキドキしながら坂路を1本駆け上がったら、これまで感じたことのないスピード感でした。凄い馬だな、と」
異次元の速力はまさにスーパーカーの乗り味。手応えと同時に不安も募ったという。
「レースで馬を抑えられるか心配になりましたね。ユタカ(武豊)はよくマイルでこの馬に乗れていたな、と驚きました。ただ、石坂先生から“ハナに行ってもいいよ。お前を乗せるのだから、折り合いを欠くような競馬だけは絶対にするな”と言ってもらって気が楽になりました」
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