10月10日。釜石鵜住居復興スタジアムでは、ラグビーワールドカップ開催1周年のメモリアルマッチが行われていた。
観衆は2271人。新型コロナウイルス感染防止のため、席は間隔をあけて指定された。W杯のスケールとはかけ離れた人数ではあった。世界中からの観客を迎え、小学生たちが休むことなく「がんばれ、がんばれ」と声援を贈ったゴール裏の仮設スタンドも姿を消していた。大声を出し、歌を歌っての応援も禁じられた。
だがそこには、あのときを思い出させる熱があった。
9月以降「1年前のこの日」を振り返る記事が連日、各種メディアに掲載され、思い出の写真やエピソードがSNSに大量に投稿された。熱狂と興奮の怒濤に流され、もみくちゃにされた1年前の日々は、閉塞感に包まれた毎日を過ごす2020年の私たちにとってあまりに眩しく、現実感さえ乏しく見える。
だが、熱狂から1年が経ち、ワールドカップの舞台となった12のスタジアムで、記念試合が行われたのはここ釜石だけだった。
試合を失ったカナダの選手たちが
釜石会場は、開催12都市の中で、最も少ない2試合しか組まれていなかった。そのうちの1試合が、台風で中止になった。
戦うはずだったのは、カナダとナミビア。
ナミビアは過去W杯5大会に出場しながらいまだ未勝利のまま日本大会にやってきた。カナダはアメリカ地区予選で米国に敗れ、ウルグアイに敗れ、敗者復活の世界最終予選に回り、香港、ドイツ、ケニアとの戦いを経て出場20カ国の最後にW杯切符を得て日本へやってきた。両国はここまでともに3戦全敗。すでにプール戦敗退は決まったが、残る目標、大会初勝利をつかみ取るために釜石へやってきていた。
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています