引退を決めて臨んだ戦いを終えた背番号10は、最後までファンに愛され、相手に恐れられた。来季もまた指導者としてグラウンドに身を置く稀代の名キャッチャーが歩んだ19年。(Number989号掲載)
平凡な二塁へのゴロ。
どたどたと一塁に走る。手前でアウトになると、そこからいつも通りに一塁ベンチにゆっくりとUターンした。特別な感慨は、少なくともまったく表には出さなかった。
「あれが最後の打席になるとは思っていなかったからね。仲間が同点に追いついて、延長でもう1回、打席が回ってくると予想していた」
10月23日。巨人がソフトバンクに4連敗で打ちのめされた日本シリーズ。その最終戦の8回1死だった。6回の代打から途中出場した巨人・阿部慎之助捕手が打席に入る。カウント1ボール2ストライクからソフトバンクの5番手、リバン・モイネロ投手の129kmのカーブを打った二塁ゴロが、現役最後の打席となった。
2001年3月30日に同じ東京ドームの阪神戦でプロ初打席に立ってから19年。公式戦で2132本の安打と406本の本塁打を打ち、首位打者と打点王、最高出塁率のタイトルを各1回、2012年にはリーグMVPにも輝き、NPB最強捕手と称された選手のラストランだった。
「この重い体を10回も上げてもらって」
「終わった瞬間は“やっぱソフトバンクはつえーな”と思いながら“終わったかー”と。短期決戦の難しさを最後の最後まで感じられたことを財産にして終えることができた。今後の野球人生にすごく役立つんじゃないかと思っています」
日本シリーズのセレモニーが終わると右翼スタンドの慎之助コールを浴びながら、チームメイトの手で10回、宙に舞った。
「この重い体を10回も上げてもらって嬉しいなと思いますし、最後にはたくさん切磋琢磨してきた選手たちもいたので、凄く幸せ者だな、と。感謝しています」
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photograph by Nanae Suzuki