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人生の苦渋と情愛に満ちた、人と動物が織り成す短編集。~67歳でトド撃ちを続ける不屈の老猟師~

2017/03/12

 歴史文学、記録文学において独自の地位を築いた著者には動物を扱った一連の作品がある。代表作は長編『羆嵐』。しかし、5冊ある動物短編集も、そのどれもが読書の楽しみを満喫させてくれる。選択に迷うが、珍しいトド撃ちを扱った表題作を収めた本書を選んだ。

 トドの雄には体重が1トンを超えるものもいる。日本で観られる最大級の巨獣を雪と流氷の海で追う。舞台は知床半島の羅臼の町。60歳が限度のトド撃ちを67歳で続けている老人がいる。老人は町を捨て上京し、夢破れて戻ってきた孫娘を家に入れようとしない頑固な一面を持つ。

 未明の展望台で見張番がトドの群れを発見した。知らせで港に集まった15人のハンターが、それぞれ船頭と一組になり小舟に乗り込み一斉にトドを追う。逃げるトド、追う小舟。息をのむ迫力の描写だ。トドの習性や操船、射撃の難しさ、猟は漁業被害を防ぐための害獣駆除で、大きな利益が得られるものではないことなど、トド撃ちの全てが綿密な現地取材によって巧みに織り込まれる。そして最後に待つ、老人の己を知った見事な決断。

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photograph by Sports Graphic Number

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