「球の速さは、スタ公が沢村より上や。速くて重く打球が飛ばない」。当時63歳の阪神・藤本定義監督の言葉。新米記者の初取材で“速球の沢村栄治伝説”が覆った意外さで今も記憶に残っている。
スタ公こと、ヴィクトル・スタルヒン、プロ野球創成期の大投手だ。シーズン最多勝利42勝、球史初の300勝投手、引退2年後に40歳で事故死…野球殿堂の胸像額にそんな球歴が刻まれている。本書は5歳で父を喪ったスタルヒンの長女ナターシャさんの追慕の書。日本に亡命した白系ロシア人(革命で赤軍に倒された帝政ロシア側=白軍=の人たち)苦難の家族史でもある。さらに球史の暗いページとも言えるだろう。
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photograph by Sports Graphic Number