CL2連覇を成し遂げた最後の監督でもある。
バルサの20年前に新たな価値を創造していた名将が、
ヨーロッパを席巻した“サッキイズム”の真髄と
過酷な戦いを制覇し続けるための方法論を語る。
欧州と世界を2年続けて制覇した私のミランを振り返るとき、真っ先に頭に浮かぶのはあの時代に生まれ、いまや都市伝説と化したひとつの逸話だ。その真実を知ることで、いわゆる“サッキイズム”の実態とCL連覇の秘訣を理解してもらえると思う。
'90年の初夏、イタリアのサッカー界に私に関する噂が駆け巡った。
――アリゴ・サッキはクラブ首脳陣に史上最強のFW、マルコ・ファンバステンの放出を強要し、できなければ辞任すると迫った――
結論から言えば、これは単なる作り話だ。ベルルスコーニ会長にアプローチしたのは事実だが、その内容は噂とは似て非なるもの。私はこう言ったんだ。
「欧州2連覇を成し遂げた今、残念ながら多くの選手が勝利への欲望をなくしている。自信は慢心に変わってしまい、これまでのようにハードな仕事を受け入れようとしない。ならば変えるしかない。選択肢はふたつ。新たなモチベーションを与えられる監督を招聘するか、あるいは大半の選手を入れ替えるか。後者の場合、それがたとえ世界最高の水準にある選手でも放出をためらってはならない」
ナポリのマラドーナが放つファンタジーに取り憑かれていた'80年代。
この“世界最高の水準にある選手”が、誰かによってファンバステンに置き換えられた。それが都市伝説の真実だ。
それはともかく、私は1年後にクラブを去ることになった。あのサッカーで欧州を2連覇したとは言え、時代はまだナポリのマラドーナが放つファンタジーに取り憑かれていた'80年代が終わったばかり。ディエゴと双璧をなす超一流のマルコに過酷な労働を強いる私に対し、世間の風当たりは強かった。才能を組織に埋没させる監督だという烙印を押されていたんだ。
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