今から約1年前。学生服とジャージしか用意せず入寮した純朴な青年がいた。今時珍しいと思われたのだろうか。先輩選手たちはそんな姿を見てかわいがり、自分の私服をプレゼントとして贈っていた。洋服を贈られた青年とは当時18歳の菊池雄星。昨年6球団競合の末、西武に入団したルーキーだ。
このまま育てば日米のスカウトを唸らせた剛球を必ずや見せてくれるだろう、と楽しみだったが、やはりプロの世界はそこまで甘くない。結局一軍での登板はゼロ。左肩痛に悩まされ続け、一度狂った歯車が元に戻ることはなかった。
有名ブランドで着飾った選手が多くいたことが、自分ひとりだけ浮いていると思った理由なのだろうか。あるいはファンに慕われるように登録名を「雄星」に変えられたことが、球界への違和感となったのだろうか。周囲の評価ばかりを気にして自分を見失ってしまい、雄星が雄星でなくなっていったような気がする。
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photograph by NIKKAN SPORTS