誰もこの快挙を予想できなかっただろう。W杯に出場する32カ国の中で、最も強烈な異彩を放つ国。しかし、日本にはなぜ彼らがサプライズを起こせたのかは伝わってこない。
その真実を知るべく、“近くて遠い国”、朝鮮民主主義人民共和国の首都・平壌を訪れた。
その真実を知るべく、“近くて遠い国”、朝鮮民主主義人民共和国の首都・平壌を訪れた。
マスゲーム“アリラン”を見終えて、15万人収容を誇る北朝鮮最大のスタジアム、“メーデースタジアム”を後にした。バスの中で、リ・ガンホンが言う。
リ・ガンホン かつては在日朝鮮蹴球団で、センターフォワード、攻撃的MFとして活躍した。平壌市内を流れる普通江のほとりで、共に訪朝した愛娘ミソンちゃんと記念撮影
「ホテルに着いたら30分後に」
リ・ガンホンは神戸生まれの在日朝鮮人2世で、在日本朝鮮人蹴球協会理事長と北朝鮮サッカー協会の副書記長を兼務する。今回の取材に際して、訪朝前から様々なアドバイスをくれていた。
待ち合わせ場所は、投宿している高麗ホテルの最上45階。そこには、北朝鮮の首都・平壌(ピョンヤン)を一望できる回転展望レストランがある。
注文したビールが来るまでの間、窓の外を眺めた。夜空には無数の星が輝いている。その中で異様に浮かび上がる赤い炎。“主体思想塔”の最上部にある烽火のオブジェだけが、燃えたぎるように光りを放っていた。
ウェイトレスが薄暗いフロアのテーブルにハイネケンを置いた。リ・ガンホンがウェイトレスを呼び止める。
「ピョンヤン産のビールはある?」
再び運ばれたのは、北朝鮮で人気の“大同江ビール”。それを2つのグラスに注いだリ・ガンホンは、ゆっくりとビールを喉に流し込んだ。こちらも口元にグラスを運ぼうとしたときだった。
「2005年のドイツ・ワールドカップ予選のとき、協会内で本大会に何が何でも出場しようという雰囲気は正直、なかった。まだ当時の代表は、世界で戦えるレベルではなかったからね」
突然の言葉に、手が止まった。しばしの沈黙。しかし、フロアに流れるマイケル・ジャクソンの『ヒール・ザ・ワールド』が、重い空気を掻き消していた。
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photograph by Park Jong Tae