令和の世にSNSで突如拡散された力士の写真。それは鋼の筋肉をまとった昭和の大横綱だった。力士離れした肉体美はどのように作られたのか。優勝31回を成し遂げた“ウルフ”の身体に迫った。[初出:「Sports Graphic Number」1066号(2023年1月12日発売)]
千代の富士の七回忌を控えた2022年の春。SNS上で、懐かしい写真が目に飛び込んできた。「カッコイイと思って思わず保存したけど、なんて言う名前の力士なんですかね?」。平成生まれの若い女性が問いかけた投稿が拡散されていたのだ。第58代横綱に昇進して3年目、9度目の優勝を果たす1983年九州場所中に撮影された姿だった。彼女はその力士が筋肉の鎧をまとった小さな大横綱とは知らぬまま、古代彫刻の如き肉体に魅了されたのだろう。
令和になってもなお耳目を集める昭和の大横綱の肉体は、いったいどのような環境から生まれ出て、そこまで極められたのだろうか。
千代の富士のルーツは、北海道の南端に位置する松前郡福島町にある。かつて「横綱千代の山・千代の富士記念館」副館長を務めた2歳年上の姉、小笠原佐登子が、今は亡き弟を偲びながら語る。
「父は漁師で、仕事柄鍛えられてはいたと思いますけれど、特に筋肉質というほどでは……。両親ともに骨太ではありましたかねぇ」
肉体を形成する3要素は“栄養・運動・休息”だとされる。土地柄もあり「当時の食卓にはホッケや鮭など魚類が多く上っていた」と姉はいう。
「弟は背は小さくなくて、同級生より頭ひとつくらい大きかったんですよ。夏は朝から晩まで海で泳いでいました。潜ってウニやアワビを獲り、空地で焼いて食べてね。とにかくスポーツは万能。バスケットをやっていたんですが、陸上大会にも駆り出されて、それなりの成績を収めていました」
全ての写真を見る -2枚-
特製トートバッグ付き!
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています
photograph by JIJI PRESS