ベテランの証明BACK NUMBER
《車いすテニス生涯グランドスラム》上地結衣32歳が語る“終わらない探求”とは?「どうなるかわからなくても、いったんやってみる」
text by

石井宏美Hiromi Ishii
photograph byAsami Enomoto
posted2026/10/22 11:01
32歳にして生涯グランドスラムを達成した上地。4大大会のシングルス通算勝利は12を数える
「東京からパリに向けての3年間は、リスクを取る決断の連続でした。私はそれまで、一つひとつ納得してからでないと次に進めない性格でしたが、パリを前にした時期は中途半端でもまず試してみるという場面が増えました。どうなるかわからなくても、いったん使ってみる、やってみる。そうした選択が、結果的に腹を括ることにもつながったと思います。もし従来どおり、一つずつ完璧にやり切ってから進もうとしていたら、今の結果には届かなかったはずです」
2023年6月。新しい車いすで手応えを得られず、遠征先から次の車いすの相談をするため、日本の担当者へ連絡をいれたこともあった。パリ大会まで残り1年。道具の刷新は賭けだが、「今動かなければ間に合わない」と判断した上での英断だった。
背中を押したのは、コーチやトレーナーだけでなく、率直に助言してくれる地元の先輩や古くからの知人たちだ。多様な視点を受け止め、まずやってみると踏み出す姿勢が、上地のテニスをさらに厚くした。
女王の次なる夢
ADVERTISEMENT
全てのタイトルを掌中に収めた女王は今、子どものような純粋さで次なる夢を語る。
「コイントスに勝ったら、車いすテニスでは有利なリターン側を多くの選手が選びます。でもいつか、『自分、サーブを取ります』と自信を持って言えるようになりたい。苦手だと言われているからこそ、やってみたいんです」
ウィンブルドンを制したあと、「初めて2週間以上の休暇を取った」と笑顔を見せる。久しぶりにラケットを握った瞬間、上地はその重さと感触に胸が震えた。
「純粋にテニスって面白いなとあらためて感じました。続けてきたからこそ見える景色があって、それを次の世代にも渡していきたいと思えたんです。今の自分だからこそ伝えられるものがある。私がプレーし、練習する姿を近くで見てもらうことで、きっと力を与えられる。そう言ってくれる人がいるから、まだまだやめられませんね(笑)」
生涯ゴールデンスラムという大きな成果も、彼女が続けてきた挑戦の物語の一章にすぎない。探し続ける気持ちがある限り、上地結衣の“今”はこれからも更新されていく。
Sports Graphic Number 1154
【スペシャルインタビュー】
イチロー「ホームランとは花火である」
【MLB1年目の躍動】
村上宗隆/岡本和真
【NPBのホームラン論】
高橋由伸&正木智也
山田哲人
【追悼ノンフィクション】
張本勲「神の域に達したバッティング」
【銀盤のスター対談】
島田麻央×坂本花織
【別冊付録】
SVリーグ/秋のランニング
特別定価:本体950円(税込)目次ページへ


