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「これで本当に走れるの?」NIKEが極秘開発した厚底シューズ《APEX》を試してみると…開発担当者は「ゼロドロップは…」「世界記録奪還へ手応え」
posted2026/10/01 09:45
NIKEの新作厚底レーシングシューズ「APEX」
text by

涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph by
Yuki Suenaga
雨が続く9月下旬、六本木を出発し、神宮外苑、そして国立競技場まで、とあるランナーと一緒に、初めて足を入れるシューズで走っていた。
横を走っているのは、NIKEでシューズ開発を担うブレット・スクールミースター。そして自分が履いていたのはNIKEが極秘に開発を進め、この度、発表された最上位レーシングシューズ「APEX」(エイペックス)。
ズームエアが、まるでビッグマックのように2層になったこの“異形のシューズ”からは、ソールが雨で濡れていたこともあり、ポキュッ、ポキュッと小さいながら独特の音が響いた。
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お互いの子供たちのこと、フルマラソンで自己ベストを出した時のレース、東京で食べた寿司。他愛のない会話をしながらシューズの感触を確かめるように走る自分に向けて、ブレットが尋ねてくる。
「How do you feel about APEX?」
「My feeling is completely different before and after running」
そしてこう補足した。
「I could understand why you said this shoe made you smile」
そう、このシューズへの印象は走る「前」と「後」で一変したのだ。
バランスが悪い“不自然”な履き心地
ランニング前、APEXを履いて立ったり、歩いているだけだと、体重だけでは前足部のエアを潰せないため、柔らかいフォーム素材のみで構成されている後足部が沈み込む。そうすると重心がかなり後ろに傾いてしまい、立つために体全体でバランスをとらなければいけないのだ。他社メーカーを含め、どの厚底シューズとも違う“不自然”な履き心地だった。
APEXは前足部と後足部の高さ(オフセット)がともに40mmで差がない、いわゆる「ゼロドロップ」シューズ。オフセットが小さくなるのが最近の業界全体の傾向でもあるが、レーシングシューズで「ゼロ」を採用したことには驚き、頭の中に「?」が浮かんでいた。
<これで本当に走れるのか?>
それが実際に走る前の、偽らざる思いだった。
だが、わずか5km程度の距離だが、キロ5分を切るくらいのペースで走ってみると、不自然さが消えるばかりでなく、初めて経験するタイプの柔らかさ(「弾性」「バネ感」と言い換えてもいいかもしれない)に自然とペースが上がり、しかも一定のリズムで走っている時には安定感を感じるほどだった。当初の<走れるのか?>という疑念は、こう変わった。
<このシューズでフルマラソンを走ってみたい>
開発者は元エリートランナー
ランニング前の取材で、ブレット自身が初めてAPEXを履いた際の正直な感想を聞いたら「僕はヒールストライカーだけど速く走れる感覚があったし、思わず笑顔になったよ」と返ってきた。「スマイル」という抽象的な返答に、ランナーとしての率直さを感じつつも、近年のトップ選手用のモデルが先鋭化していることを知っているだけに「抽象的な言葉で誤魔化されたかな?」と思っていた。
しかし、それは素朴で、嘘のない表現だったと走った後なら言える。経験したことのない新しいものに出会い、それが想像とは違う体験を与えてくれると、人は笑顔になってしまうのだ。
では、APEXの何が新しく、僕らを笑顔にさせたのか。実際に開発に携わってきたブレットの言葉を紐解きながらその全貌に迫っていきたい。
ちなみにブレットは元長距離ランナーで、コロラド大学時代の自己ベストは3000mが7分49秒、5000mが13分30秒(!)。高校時代、大学時代にシューズ販売店でアルバイトを経験し、NIKE入社後も20年シューズ開発に携わっているという筋金入りのシューズラバーだ。


