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審判たちの甲子園BACK NUMBER
金足農の“サヨナラ2ランスクイズ”敗者の悲劇「近江の2年生捕手は立ち上がれず…」なぜ審判は動かなかった?「私らがいらんことするのは、よくない」
text by

安藤嘉浩Yoshihiro Ando
photograph byJIJI PRESS
posted2026/08/13 06:01
2018年夏、林優樹と2年生バッテリーを組んだ近江の有馬諒。金足農の2ランスクイズでサヨナラ負けを喫し、グラウンドに崩れ落ちた
田中は2009年夏の決勝、中京大中京(愛知)対日本文理(新潟)で二塁塁審を務めている。日本文理の反撃が始まると、「中京大中京がアウェーの雰囲気になっとるな」と感じた。
「これが甲子園のスタンドなんですよね。独特の雰囲気があります」
もちろん、球審として1球1球に集中していたので、そのような感慨に浸っていたわけではない。
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ただ、甲子園には抗いきれないような大きな波が押し寄せることがある。
8番の菊地亮太がバントの構えからボールを見極め、四球を選ぶ。無死満塁――。
「間違いない、セーフだ」2回コールした理由
9番の斎藤璃玖が左打席に入る。1回戦でスクイズを決めている。三塁前に転がすのがうまい選手だ。
審判員は、色々な場面やプレーを想定し、4人で連携をとりながら試合を運営している。
「もちろん、スクイズの可能性は考えとったよ。だけど、2ランスクイズまでは頭になかったな」と三塁塁審の堅田。
斎藤は初球、バントの構えを見せる。ボール。2球目は打つ構えから見送ってストライク。
そして、3球目を三塁手の前に転がした。スクイズだ。
「このケースで、ぼくがまずやるのは二塁走者の三塁ベース触塁を確認することなんや」。堅田は言う。
「よっしゃ、ちゃんと踏んだな」と確認したが、二塁走者の菊地彪がその勢いのまま、本塁へ向かっていく。
「豊さん、行ったでえ~!」
心の中で堅田は叫んだ。その視線の先で、菊地彪の背中がみるみる小さくなっていく。
田中は本塁ベースの後ろから動かず、三塁走者がヘッドスライディングで生還するのを確認し、三塁方向に1、2歩動いた。
三塁手から一塁手へボールが送られる。その間に、菊地彪が三塁から本塁へ猛然と走ってきた。
その菊地を出迎えるように、田中は再び1、2歩、元の位置へ動く。一塁手から転送されたボールを受けた捕手の有馬諒がタッチするより、わずかに早く、菊地彪が頭から滑り込んだ。
そのタッチプレーを低い姿勢で確認し、その姿勢のまま、田中は両腕を2度、大きく広げた。
「セーフ!」「セーフ!」
「ふつうなら1回なんですが、この時だけは2回セーフを出した。サヨナラやったんで。2回出しちゃった。間違いない、セーフだ。そういう気持ちでやりました」
右ひざをついた姿勢できれいに両腕を広げた田中の姿は、劇的なラストシーンとして、多くの高校野球ファンの記憶に刻まれた。


