博多の人・王貞治BACK NUMBER
「お前、監督の椅子を蹴るとは!」「蹴ってないですよ!」ホークス城島健司と王貞治の“大騒動”の真相「俺、王さんに当たられた唯一の男です(笑)」
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喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byNaoya Sanuki
posted2026/08/07 06:01
打力に秀でた城島(左)を一塁やDHにという案もあったが、王(右)はあくまで城島を捕手として使い続けた。王を師と慕う城島が若き日に巻き起こした「騒動」とは
王は福岡ドームでの試合中、一塁側ベンチから奥のサロン、ロッカーへとつながる通路付近に、専用の椅子を置いている。王が立って戦況を見つめているとき、ロッカーへ戻ろうとした城島が通りかかったタイミングで、その椅子が「バターンと倒れたんです」。
そのけたたましい金属音に王が振り向いたとき、背番号2がサロンの方向へ入っていくのが見えたのだという。
「監督は、椅子を俺が蹴ったんだと思ったんですよ。疑われるのは、僕に責任はあるんですけど、でも、やっていないんですよ」
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交代させられた腹いせに、王の椅子を蹴った——。
「お前、監督の椅子を蹴るなんて、何事だ」
「俺、蹴ってないですよ」
「蹴ったんだよ」
「蹴ってないです」
王の堪忍袋の緒が切れて……
不毛な水掛け論だろう。しかし、縦社会のプロ野球界。誤解を招いたのが部下ならば、それが誤解であっても頭を下げる。その理不尽さも、まだ残っていた頃だ。しかし、城島の勝気な性格は、やっていないことをやったとして呑み込むことはできない。それも若さだ。
「謝れ」
「やってないから、謝らないですよ」
その瞬間、王の堪忍袋の緒が、音を立てて切れた。倒れていた椅子を持ち上げると、城島に向かって投げつけた。けたたましい金属音を聞きつけたカメラマンたちが、試合そっちのけでベンチ裏に駆け込んでくると、絶え間ないシャッター音が響き渡った。
監督と正捕手の激突。とんでもない事態だ。試合後、王から監督室へ来るよう、メッセージが届いた。
「ジョー、今日あったことはもういい。もう何も言うな」
そう告げると、城島にたった一つだけ“監督命令”を出した。
「明日、スタメンで出ろ。それだけでいい」
城島は左膝に痛み止めの注射を打って、試合に出場した。
「次の日、スタメンで出ました。フルイニングですよ。それから監督、何もそのことに対して言わない。もう、これで終わり。監督と揉めたこと、逆らったことも」
その後日談を、城島は人づてに聞かされたという。

