- #1
- #2
プロ野球PRESSBACK NUMBER
江夏豊の“体型を変えた”球団命令「今だったら人権侵害で完全アウト」心臓に抱えていた“爆弾”「ここで死んでしまうのでは…」マウンドでも発作が起きた
text by

江夏豊+松永多佳倫Yutaka Enatsu + Takarin Matsunaga
photograph byJIJI PRESS
posted2026/07/12 11:00
若手時代はスリムな体型だった江夏豊(1970年、当時22歳)。体重増加には明確な原因があった
「ここで死んでしまうのでは…」
それまで心臓に異常はなかったが、太ってからは心臓が時折バクバクするようになった。そして精密検査を受けると、先天性の心臓病であることが判明したのだ。
病名はWPW(ウォルフ・パーキンソン・ホワイト)症候群。知り合いのライターに話した時「プロレスの団体みたいな病名ですね」と言ったもんだから張り倒してやった。この症状というのは、正常な心臓の伝導経路とは別に伝導経路が存在する状態で、俺の場合は脈拍数が異常に多くなり、100mを全力疾走した直後のような動悸が起こる。一分間に200を超えるような脈拍数だから、とんでもなく異常な数値である。それまで自覚症状はなかったのだが、太ってからは心臓に過度の負担がかかっていたようだ。
今でも不整脈はしょっちゅう出る。不整脈を患った人ならわかると思うが、座って本を読んでいても、寝ていても突然の発作が起きたりするからタチが悪い。
ADVERTISEMENT
それでも登板しなきゃいけないということで、お袋と一緒に球団に呼び出され、「一筆書け」と言われた。要は「もしもグラウンド上で何かあっても、球団は一切責任を取らない」という誓約書だ。令和の感覚ではとても許される話ではないが、俺もお袋も「はいはい、わかりましたよ」と判を押した。
ポケットにはいつもニトログリセリンを入れていた。一度だけ発作を抑えるために飲んだことがあったが、副作用はかなりきつい。とても常用できるもんじゃないと感じ、それ以来一切飲むことはなかった。
マウンド上でも何度か発作が起きた。ベンチに戻れば倒れこむように横になり、時にはマウンドでうずくまったこともあった。急に脈拍がドドドドッと上昇し、脈も取れないほどの状態になる。試合中は“持って生まれた病気だから仕方ない。気丈でいれば悪くならない”と自分に言い聞かせたが、冷静に考えると、“発作が起きていきなりここで死んでしまうのではないか”と、やっぱり怖かった。だが、産んでくれたお袋を恨むわけにもいかないし、何よりも野球が好きで、野球がしたいという気持ちのほうが強かった。
<続く>
江夏豊・松永多佳倫『江夏の遺言』(小学館)※クリックするとAmazonのサイトにジャンプします
