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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「井岡さんになら負けても…」井上拓真がいま明かすレジェンド・井岡一翔とのタイトル戦 “誰にも言っていない”衝撃の真相「勝負は自分のなかで5分5分だと」
posted2026/05/22 17:01
井岡一翔とのWBC世界バンタム級タイトルマッチで大差の判定勝ちを収めた井上拓真のインタビュー(前編)
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Takashi Shimizu
井岡の入場曲で「テンション上がったくらい(笑)」
待ってましたとばかりに東京ドームがざわついた。
もう一つの極上カード、王者の井上拓真に5階級制覇を懸けて井岡一翔が挑戦するWBC世界バンタム級タイトルマッチが始まろうとしていた。
大型ビジョンに流されるVTRには、拓真とアマ時代にライバルとしてしのぎを削り、プロで井岡と戦った元4階級制覇の田中恒成があらわれ、拓真を「職人」、井岡を「達人」と形容した。筆者の近くにいた誰かの「うまいこと言うなあ」という声に思わず頷いた。
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テクニックで鳴らすその2人の戦いは、拓真が2、3ラウンドに続けてダウンを奪って優位に進め「職人」の完勝で幕を閉じた。だが細部に目を落とせば、様々なドラマがちりばめられていた。試合から10日ほどが経ち、「そろそろ体を動かそうと思っています」ときれいな顔のチャンピオンがいた。那須川天心戦に続いて注目を集めたビッグマッチを制してまたひと回りスケール感が大きくなった印象を受けた。
試合前の入場シーンから5万5000人が沸いた。
まず挑戦者の井岡は、親交のあるAK−69が歌い上げる「IRON HORSE」で一緒に入ってきた。拓真もAK−69の「ONE」を長らく入場曲にしてきた。大好きなアーティストが相手側にいるのだから、ちょっと複雑な感情を抱くかと思いきやむしろ逆だったという。
「いや、自分は全然(気にしていない)。というか待っている間に、(入場曲を聞いて)テンション上がったくらい(笑)。自分もAKさんのファンで、ライブにも行っているので」
生歌でちょっぴり温まった状態で、今度はファルコの「ロック・ミー・アマデウス」が鳴り響く。音楽家モーツァルトの人生をラップに刻んだ1980年代の名曲。プロデビューから6戦目まで使っていたこの曲に、先の那須川戦から戻していた。
「堤(聖也)に負けて、ボクシングを辞めることも考えたなかで続けるという決断をしたじゃないですか。だから初心に返る意味もあってデビューで使っていたアマデウスに変えた。天心選手と戦う前に井岡さんと次に試合するなんて想像したこともなかったので、(かぶらなかったのは)本当に偶然だし、タイミング凄いなって思ったくらい。
元々はデビュー前に入場曲を決めようとしたときに母が『これ、どう?』と教えてくれて、凄くかっこいいなと思ったんですよね。僕は基本的に試合のときにしかこのアマデウスを聞きたくない。自分のなかで特別感を出したいから」
「井岡さんになら負けても…」
相手の入場曲と、自分の入場曲。ダブルの特別感に背中を押されるかのように静かに高揚して東京ドームのリングに向かった。そもそも、この試合はこれまでに経験したことのない感情を抱いていた。
彼は「誰にも言っていない」ことを打ち明ける。


