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なぜ坂本花織は大会の日でも、ライバル選手を励ましたのか?「人に勝ちたい」と考えていたジュニア時代からの変化…引退まで愛され続けた“人柄の原点”
text by

松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJIJI PRESS
posted2026/05/19 11:02
5月13日、神戸で引退会見を行った坂本花織(26歳)
それはオリンピックのような大舞台でも変わることはなかった。
ミラノ・コルティナ五輪は、競技人生の集大成と位置付けていた大会だった。格段に重みのある大会でも、自身の演技を控えているにもかかわらず、中井亜美らににこやかに声をかけている光景があった。
みんなのベストパフォーマンスを願っていた。その上で「勝ちたい」と思っていた。
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感謝する相手であり、ベストパフォーマンスを願う相手であるからこそ、素直にライバルたちを称えた。敗れても、「悔しい」と「称賛」が両立していた。
「選手同士が称え合う」というスタンダード
優勝を果たし、有終の美を飾った今年3月の世界選手権の記者会見でのやりとりは象徴的だ。
フィギュアスケート界の変化について海外の記者から尋ねられ、坂本は答えた。
「ここ数年で、選手同士が称え合う環境ができたというのは選手全員にとってよかった変化だと思うし、そのおかげで試合に挑むときに、もちろん緊張する人も多いと思うけど、雰囲気があたたかくなるので試合しやすくなるのかな、と感じます」
その答えを聞いたあと、記者は坂本に告げた。
「あなたがそれをつくったのです」
形だけではない感謝が根本にあり、そこから生まれた言動も、坂本というスケーターの姿を表している。
「感謝」と言えば、2017年7月のインタビューで、坂本はこう語っている。
「昔の自分に『感謝』です。フィギュアスケートがなかったら、自分は何のとりえもない、ただの高校生だっただろうなと思うんです。だからフィギュアスケートをやろうと思った自分に感謝しています」
近い将来、本格的に指導者として歩む姿を思い描いている。
出会うことができたフィギュアスケートへの感謝、携わる人々に感謝できる心はきっと、その財産となっていく。

