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「正直、コートに立ち続けたい気持ちはある」さらば錦織圭…“73.1%”に秘められた唯一無二の「没頭力」と素朴な「負けず嫌い」が見せてくれた夢
text by

秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byYuki Suenaga
posted2026/05/22 11:05
今季限りでの現役引退を表明した錦織圭。日本テニス史上かつてない時代をつくった彼の最大の魅力とは何だったのだろうか
「圭も、やさしいし、弱いところはやっぱりある。強さも弱さも同居している。ただ、コートに入れば別だと思っています。没頭して、リミッターが外れた状態になるから、弱さを全然超えてしまうんです」
精神的な弱さをねじふせるだけの、卓越した集中力。「メンタルの強さ」を丹念に腑分けしていけば、中心にこれがあるのは間違いない。
体より脳を使う「駆け引き」
接戦になればなるほどショットや戦術の精度が上がり、面白いようにウィナーを決めていく。試合終盤には読みがズバズバ当たり、序盤は苦労していた相手のショットに苦もなく対応してしまう。我々はそんな錦織の姿を見てきた。
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この「ゾーン」状態が集中力のたまものであるのは間違いないが、錦織の場合、思考力が寄与するところも大きい。
錦織は敗れた試合を「体より脳が疲れていた」と振り返ったことが複数回ある。身長178cmは男子ツアーでは最も小柄なグループに入る。だからこそ頭を使い、相手のプレーを徹底的に分析する。ショットの組み立てやコース選択を緻密に行う。当初の戦術が不発に終われば、ただちに修正する。その思考力が錦織を支えた。だから、体より先に脳が疲れ、いいアイディアが浮かばず、そのまま押し出される試合もあったのだ。
昨年行なったインタビューで、錦織はこんな話をしている。
「頭も使いながら、1対1で相手との駆け引きを楽しむ。僕はゲームも好きだったので、対戦相手とゲームを楽しむようなやりとりが、テニスの楽しさですね」
幼少時に感じたテニスの楽しさを尋ねた質問だったが、始めて間もない頃から相手を意識し、「駆け引き」を試みていたことが分かる。
「どう攻略していくか。この相手、このモンスターに勝つにはどう戦ったらいいかっていうのを、一つの道だけではなく、2、3個、どうやったらいいかっていうのを考えたりするのは好きでした」
この文脈で、モンスターとはゲームに登場する怪異なモンスターであり、同時にロジャー・フェデラー(スイス)やノバク・ジョコビッチ(セルビア)らテニス界の怪物を指している。正面から攻略できなければ横から攻め、背後からも攻める。正攻法が通じなければ、だましてでも勝つ。錦織のテニスはそこから始まっている。

