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ボクシングPRESSBACK NUMBER
実は中谷潤人が「井上尚弥のリターンが速くて前に出られない」と漏らしていた…同門の元世界王者が見た世紀の一戦「それでも潤人の評価は落ちない」理由
text by

杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2026/05/07 06:02
中谷潤人はなぜ終盤まで積極的に前に出なかったのか? 真相を元ルディ門下生でもある伊藤雅雪氏が読み解いた
中谷自身が「前に出られない」
「潤人自身が前半は『(井上の)リターンが速くて、前に出られない』と話していたようです。『もっと早くに出ていれば良かった』という意見もあるかもしれないですが、それは結果論。行かざるを得ない状況で出るのと、その前に出るのはワケが違います。出られなかったのが、答えかなと」
無理に行かせなかった陣営の判断も理解できる。距離感を自ら把握しない段階で出て行けば、致命的な一発を被弾した可能性もある。ジャッジの採点が割れ始めた5ラウンド以降は、要所で応戦する回数が少しずつ増えてきた。伊藤は7ラウンド目まではすべて井上優勢と見ていたが、その差はわずか。
「10-9の1ポイント差ではなく、『0.5』くらいの差です。潤人が手数を出すと、その少し上を尚弥が行く感じでした。入り際に合わせるのも難しかった。尚弥は出入りのときにあらゆるフェイントを駆使していましたから。それでも、潤人は膨大な情報を処理しながら冷静に戦っていたと思います。普通なら容量オーバーでパンクしますよ」
中谷が勝つならKOしかなかった
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明らかな変化が見えたのは8ラウンド。リスクを冒して、積極的に前へ出る。覚悟はひしひしと伝わってきた。近い距離で危険なパンチが何度も交差する。ガードの上からでもお構いなしに強く振り、体にもパンチを当てた。9ラウンドに放った左のロングアッパーは井上の顔をかすめ、頬付近は赤みがかっていた。目を見張ったのは10ラウンドだ。打ち下ろした左ストレートを側頭部に当て、渾身の一発もヒットさせたかに思えた。
「尚弥はフックを振るときにアゴが上がる癖があり、そこが唯一の弱点かなと思っていました。まさに、あの場面はそうでした。相手がパンチを打つと同時に、潤人の右フックがうまく入りましたから。以前、陣営と『相打ちのタイミングしかないよね』と話していたんです。でも、芯を捉えられず、決定打にはならなかった。潤人が勝つならKOしかないと思っていたので、効かせるパンチがなければ、難しいです」
続く11ラウンドは周知の通り。左の眼窩底を痛めて、勢いは止まってしまった。それでも、全体を通して、練習してきたパターンは随所に見えた。前の手で駆け引きしながら、相手の右ボディストレートには左アッパーで返すなど、徹底して打ち終わりを狙った。昨年末、エルナンデスに苦戦を強いられた一戦から5カ月。フィジカル、メンタルともに最高の状態に仕上げてきたのも見て取れた。

