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バレーボールPRESSBACK NUMBER
「お前のせいで負けた」“スーパー1年生”を本気で叱った先輩の本音「海司がすごいことはわかってる。でも特別扱いしない」清風・西村海司に託された春高優勝
text by

田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYuko Tanaka
posted2026/05/08 11:01
2026年3月、卒業を控えた先輩たちにいじられる清風・西村海司(中央)
土屋が発した言葉は、実は森田にも向けられていた。
セッターとエース。ポジションと学年は異なるが、二人とも我が強い。西村がトスに対して不服そうな顔をすることがあるように、「今まではずっとドSのトスワークが自分流だと思ってやってきた」と話す森田にも、コミュニケーションを図ることが必要だと土屋は感じていた。
互いが思いを伝え合わなければ、攻撃力もトスの技術も活かされない。森田には土屋が、西村には土屋とマネージャー三輪冬芽(当時3年)が事あるごとに声をかけ続けた。それぞれが何を考え、何に悩んでいるのかを聞き出し、互いに伝え合った。根気強い働きかけのおかげで、森田が「トスどう?」と西村や他のアタッカーに向けて切り出す姿も徐々に見られるようになった。
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西村にも少しずつ変化が生じた。
試合に向けて膨大な量のデータを打ち込み、アナリストとして分析する土屋と、マネージャーという役割を務めながら普段は選手として練習し、誰より最後まで必死にボールを追いかける三輪の姿を見て、本気で取り組むとはどういうことかを学んだ。不平不満を顔や態度に出すことなく、「やると決めたらやる」と実践する。それを先輩たちは身をもって見せつけた。
バレーボールだけでなく、生活面においても先輩たちの目は行き届いていた。やると言いながらやらない、いわば“悪カイジ”が姿を見せるたびに先輩たちは戒めた。西村は「誰に怒られるよりも怖かった」と笑いながら振り返る。
「部室の片付けとか、ゴミ拾いとか、知らん顔しようとする僕の前でスッと冬芽さんが拾って僕を見る。そういうところを見せられるだけで『やべ』と思うし、『やれ』と言われるより響きました」
西村が憧れたエースの存在
もう一つ、西村の感情を揺さぶった出来事がある。西村を“スーパー1年生”として印象づけた、今年1月の春高バレー準決勝・駿台学園戦だった。
インターハイで敗れた駿台学園と再戦が決まった時点から「ここが大一番」と位置づけられた。「打っても打っても決まらない」と評される駿台学園の守備力や戦術遂行能力の高さに対し、清風も驚異的な粘り強さと多彩な攻撃で対抗。試合はセットカウント2対2でフルセットにもつれた。
試合の盛り上がりが最高潮に達したとき、西村の両脚は限界を迎えていた。
試合中盤から両脚に異変を感じ、動くのがやっとの状態。それでも、第5セットの1本目、長いラリーの末に西村がバックアタックを決めた。
「あの場面は海司に決めてほしかった」とセッター森田が託し、西村もそれに応えた。だが、着地と同時に立ち上がることも、歩くこともままならない。プレーを続けられる状態ではなかった。
両肩を抱えられ、泣きながらベンチへ退く1年生に会場からは大きな拍手が送られた。その時だった。エースナンバー「4」を背負う尾崎亮太(当時3年)の声が会場の大声援を打ち消した。
「俺に持って来い!」
チームを勝たせるために、どんな状況でもトスを呼ぶ。そして決める。すべてのボールに思いを託すような森田のトス。同じコートに立てない自分への悔しさも重なり、西村はベンチで涙が止まらなかった。

