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「日本国籍を失う。その決断はできなくて」りくりゅう恩師が苦悩“フィギュアペア冬の時代”を乗り越えて…木原龍一、高橋成美が台頭するまで
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山田智子Tomoko Yamada
photograph byUtako Wakamatsu
posted2026/05/02 11:02
りくりゅうの恩師でもある若松詩子さん。一躍注目を集めたフィギュアペアだが、“冬の時代”があった
オリンピックに出場するためには、若松さんかカナダ国籍のパートナーのどちらかが国籍を変える必要があったのだ。
「日本はペアがいないので、選考の観点では有利である一方で日本の国籍制度が複雑。カナダは、他にも素晴らしいペアがたくさんいるので代表になるのは難しいのだけど、国籍の取得のハードルが日本よりは低い。話し合いの末、私がカナダの国籍を取得して頑張ってカナダで出ようということになりました」
2006年のトリノオリンピックに間に合わせるために申請を急ぎ、カナダ選手権では2004-05シーズンに2位、翌年は3位と順調に代表の座に近づいていた。しかし、最終的には国籍の申請を取り下げ、オリンピックを断念した。何があったのだろう。
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「カナダ国籍を取ったあと、もしオリンピックに行けなかったらどうしようと不安になってしまったんです。日本は二重国籍が認められていないので、カナダ国籍を取得すると、日本国籍を放棄しなくてはなりません。今思えば、どうにでもなったんですけどね。日本国籍を失うということが非常に大きなことで、当時の私にはどうしても決断できなくて、最終的に申請を取り下げました」
パートナーのフェクトーはショックを受けていたが、「オリンピックに関係なく、詩子と最後まで滑りたい」と言ってくれた。
「テレビで中継されるたびに、『このペアは国籍問題があって』と言われ続けていました。私だけでなく、ジャンも競技だけに集中しきれなかったんじゃないかと思います。本当に申し訳ない気持ちでした」
若松さんと同時期にペア競技をしていた井上怜奈さんはアメリカ国籍となり、ジョン・ボルドウィンとトリノオリンピックで7位に入賞。川口悠子さんはロシア国籍を取得し、バンクーバーオリンピックで4位入賞を果たしている。
日本人同士のペアが生まれてよかったなと心から
一方、世界選手権で3位となった高橋成美・マーヴィン・トラン組は、オリンピックを目指すためにパートナーを解消。その後、高橋は木原とペアを組むこととなった。
「成美ちゃんとマーヴィンのペアは関係性もすごくよくて、大好きでした。でも、オリンピックには出られない。だからこそ、日本人同士のペアが生まれてよかったなと心から思っています」
若松さんは国籍問題によりオリンピック出場は叶わなかったが、彼女がカナダで切り開いた道は、高橋成美、三浦璃来へと受け継がれ、日本人同士のペアの金メダル獲得へとつながっていった。〈つづきは下の【関連記事】へ〉

