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「アメリカに悪い感情は」「ジャッジはサッパリ」“トランプと遺恨”に見られがちなベネズエラ熱狂のWBC優勝だが…マイアミで聞いた複雑な声と報道
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沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byNanae Suzuki
posted2026/03/29 17:01
WBC初優勝を果たしたベネズエラ。アメリカとの決勝も素晴らしい雰囲気だった
アメリカ打線は、ベネズエラの強力投手陣の前にほぼ完全に抑えられていたが、ようやく8回、ブライス・ハーパーが同点2ラン。それまで沈黙していたアメリカ人ファンが初めて盛り上がった。しかし9回、ベネズエラはエウヘニオ・スアレスが左中間を破って再びリード。9回裏のアメリカの攻撃をダニエル・パレンシアが3人で斬って取り、初優勝の栄光を掴んだ。
“トランプとの遺恨”と感じそうなところだが
そこから先は、ベネズエラ人たちのフィエスタ、またフィエスタだった。
周知の通り、今年1月にニコラス・マドゥーロ大統領がアメリカ軍による電撃的な軍事作戦によって拘束され、現在、ニューヨークの刑務所に留置されて裁判を待っている。このような政治状況から、「ベネズエラ人たちはアメリカ政府による理不尽な仕打ちに憤激しており、この決勝を遺恨試合と捉えている」と思う人がいるかもしれない。
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しかし、実際のところ、スタンドでそのような空気は微塵も感じられなかった。
ベネズエラ人の観衆は、その大半がウーゴ・チャベス(1999年~2013年)からマドゥーロ(2013年~)へと続く独裁政権による圧政と経済政策の壊滅的な失敗に絶望してアメリカへ逃げて来た人々だ。
母国は、人口約3200万人の4分の1に相当する約800万人が国外へ逃げ出し、残る国民も多くが移住を希望している、という悲惨な状況にある。しかし、この日スタンドを埋めたベネズエラ人たちは決勝戦の高価なチケット(平均500ドル前後=約8万円)を自分と家族のために購入し、スタジアムで(高いと文句を言いながらも)23ドル(約3700円)の軽食と16ドル50セントのビール(約2600円)を楽しめるほどの経済力があり、すでにアメリカで確かな生活の基盤を築いている。
「トランプと米国に悪い感情は」「ノーコメント」
ベネズエラ本国の人々のアメリカ政府への思いを彼らに尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。
「もちろん、1月のアメリカの軍事行動を国際法違反だと憤っている者もいるよ。でも、マドゥーロは最悪の政治家、最悪の人間だったから、国民の多くは彼を排除したトランプとアメリカに悪い感情は抱いていない」
その一方で大会期間中、オマール・ロペス監督が「政治的なことは話したくない。我々の唯一の目標は、優勝すること」と繰り返したのと同様、「政治についてはノーコメント」と口を閉ざす人もいた。
試合直後、ベネズエラの有力地元紙「エル・ナシオナル」の電子版は「ビバ、ベネズエラ! アメリカを倒して世界チャンピオンだ!」と題する記事を配信し、こう記した。

