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極限まで体を整え、ラストイニングを支配する。絶対的ストッパーとなった松山晋也が語った準備の真髄
posted2026/04/10 11:00
2026年シーズンも中日ドラゴンズのストッパーとしての活躍が期待される松山晋也
text by

石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
Hideki Sugiyama
2022年育成ドラフト1位で中日ドラゴンズに入団した松山晋也は、翌年に支配下登録され、昨年は46セーブを記録。育成出身選手としてはプロ野球史上初となるセ・リーグのセーブ王を獲得するという大躍進を見せた。
「電話が鳴った瞬間、“じゃあ行こうか”という感じです。自然とスイッチが入りますね」
「不安があるから」とそれまでの準備にはとことんこだわる。そしてマウンドに上がれば「あとはやるだけ」と腹をくくる。
「打者との本気の勝負を楽しんでますね」
階段をわずか3年で駆け上がってきた背景には、野球オタクとも評される高い探究心と努力がある。
「勢いで投げているように見えるかもしれませんが意外と冷静なんですよ。マウンドに上がる直前に確認するのは、やっぱりデータです。これは外せないルーティンであり、僕の生命線。数字は裏切らないですから」
みんなの人生がかかっているポジション
以前は感覚に頼っていた投球だったが、日によって波が大きい。特に守護神という役割は同じ質が求められるため、それでは限界があると気づいた。
そのため松山は対戦データに基づいた戦略的な投球を重視し、結果、投球の基盤が出来上がった。さらに見えない部分も数値で把握し、毎日同じ状態で投げるための指標を得て、再現性を実現。“データ”が彼を支えたといっても過言ではない。
自らの投球を客観視できる冷静さとどこまでも改善し続けるあくなき探究心も右肩あがりに進化しつづける要因となっている。
整え方や準備、回復など、コンディショニングに対する意識も松山はただケアをすればいいというスタンスではない。ベストなコンディションで投げるための身体をいかに維持できるか、その意識は高い。
「僕はみんなの人生がかかっているポジションを任されていますから」
自分の出来がチームメイトの人生をも左右する。そんな責任感を背負っているからこそ、コンディショニングが生命線になると捉えているのだ。
そう強く自覚するようになったのは、2年目に中継ぎとして勝利の方程式入りしたことがきっかけだった。8回のマウンドを任され、当時の絶対的守護神ライデル・マルティネス(現巨人)にバトンをつなぐと、翌年はマルティネスの移籍により空いたクローザーの座を担ったことで、よりその思いは強くなった。
食事、睡眠…徹底的な自己管理
整えることが投手生命の中心にあると考えている松山は日頃からあらゆることにこだわる。
食事面にはもちろん以前から気を遣っていたが、昨年の2月にはあらたに栄養士をつけ食事を管理。栄養学を学ぶ機会にもなっている。
「投げるために必要な体重のコントロール面を中心にマネジメントいただいています。もちろん食事の内容もどういうものをどういうタイミングで摂るべきなのかなど食事の内容や質などに関しても細かくアドバイスをいただいています」
大学生の頃からとくに松山が力を入れてきたのが睡眠だ。
「NBAのレブロン・ジェームズやテニスのジョコビッチは10時間以上睡眠を取っていて、パフォーマンスが上がったと聞きました。睡眠は1日の3分の1以上の時間を占めるだけに、絶対にこだわるべきだと考えていました」
一軍の試合は必ずナイターで行われるとは限らない。デーゲームのときもある。そのため、「対応が難しかった」という。
試合後は「アドレナリンがあがってしまうタイプ」のため、なかなか寝付けない。入浴時にはバスグッズを使って、頭と心をリフレッシュする工夫も行っている。就寝時に着用するリカバリーウェアも試行錯誤したが、そんなときにBAKUNEと出会った。
「睡眠の質、心拍、体温変動、ストレスの指標を計測しているんですが、いろいろ試したなかでもBAKUNEが数字上でもすごく良かったんです。感覚的な部分も含めてマッチしました」
就寝前は睡眠を妨げるとも言われるブルーライトをカットするためベッドに入る直前は見ないようにしている。ただ、“寝ないといけない”とストレス過多になると、逆に緊張して眠れなくなってしまうため、マインドフルネスを実践し、快眠につなげている。
メジャーリーガーからの刺激も受け…
最適解を模索する松山は知らないことを知ろうとする姿勢も強く、あらゆるところにアンテナを張っている。他人の知識を刺激として受け取り、取捨選択しながら自分のものにしてきた。
昨年12月、エンゼルスの菊池雄星が手がける岩手県のトレーニング施設ではともに自主トレをし、メジャーリーガーの本気を肌で感じた。
「野球に関してはもちろんですが、投げた後にいかにフレッシュな状態に持っていくかという点でいろいろ勉強になりました。睡眠に入るまでの入浴の仕方などすごくこだわって実践されていて。少しでも差を埋められるように自分もしっかりとやっていかなければいけないとあらためて痛感しました」
カブスの今永昇太からも「メカニックのことや考え方、メンタリティーについていろいろと教えていただきました」とアドバイスをもらったと話す。
整えることだけが、唯一自分でコントロールできる領域だ。整える力を投手として最大の武器に変えた松山は「まだまだできることはたくさんあるので」と貪欲だ。
「トレーニングの部分に関してもコンディショニングも、自分の可能性を広げるためのチャレンジはこれまでと変わらずやっていきたいですね。どんな体感が得られるのかを自分の体で試しながら。睡眠の質もまだまだ上げられると思っているのでさらに極めていきたいです」
今季は「50試合以上登板して、しっかり抑えること」をテーマに掲げている。それを実現するため昨年のオフは、柔と剛を組み合わせたトレーニングで「しっかり動けるけど強い、強いけど柔軟性もある」身体づくりにこだわってきた。
「昨年の結果に満足はしていません。もっと結果を出したいし、活躍したい。だからこそ、さらに良くなるために何をすればいいのか。トレーニング、コンディショニングの両方で多角的に考えています。今年も自分の出番が来たときにはしっかり抑えられる準備をして臨みます」
極限まで整え、最後の1イニングを支配する。
今季も松山はマウンドに立った瞬間、雑音にも惑わされず、淡々と自分の投球をやりきる。


