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“厳しすぎる”養成所生活に悲鳴「もうやめたい…」元プロ野球選手が味わったボートレースの“過酷な現実”「1勝がこんなに難しいのか」初勝利まで8カ月
text by

曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byKiichi Matsumoto
posted2026/02/15 11:37
ボートレーサー養成所での過酷な訓練。「毎日のようにやめたいと思った」という野田昇吾を支えたものとは
「あと5cm低ければ…」身長が持つ“真逆”の意味
――これは嬉しかった、というレースはありますか?
「初めてイン逃げしたときですかね。当たり前のように見えるかもしれませんけど(ボートレースは最内の1コースの勝率が全国平均で50%以上)、イン逃げはめちゃくちゃ難しいんです。僕は10走かかりました。今トップの選手でも、それくらいかかった人はたくさんいるみたいです」
ボートレーサー養成所には10代で入所する者が多く、野田のように“舟券を買う立場”から転身した選手はおそらく少数派だ。身銭を切るファンからすれば嘆きたくなる瞬間も多いのがボートレースだが、双方の立場を知る野田はどう感じているのだろうか。
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――自分がファンとして買っていたとき、失敗した選手に対して「おいおい」と思うことはありませんでした?
「ありましたね(笑)。なんでスタートいけないんだとか、なんで抜かれるんだとか。でも、いざ自分がなってみると、本当に簡単じゃないなって思います。だから楽しいというのもあるんですけど」
野田にとって、デビュー前にボートレースを見ていたことは必ずしもアドバンテージにはならなかった。むしろ、俯瞰の映像と水面での主観との“ズレ”に悩まされたという。
「外から見ていたという経験が、最初のほうは裏目に出てしまって。上からの視点、動画で見ている景色が脳にインプットされてるんですよ。俯瞰的に見ているように走れる人が一番すごいんですけど、僕の場合は上から見る映像と水面を走っている動きが全然マッチしていなかった。それでよく抜かれてしまって、師匠の須藤(博倫)さんに結構指摘されていました」
167cmという微妙な身長も、野球に打ち込んでいたころとは真逆の意味を持つことになった。
「野球選手の頃は『なんで身長低く生まれたんだよ。あと5cm高ければ……』ってずっと思ってたんですよ。でも今は『なんで167cmもあるんだ。あと5cm低ければ』って思います。たぶん桐生順平さん(161cm)くらいの体型が一番、ボートの中でも体が動かしやすいし、体重に苦労することも少ないので。難しいですね」
経歴的にも、体型的にも、ボートレーサーとして恵まれた立場にはない。そんな野田が武器にしようと試みたのがスタートだった。幾度も辛酸をなめながら、0.01秒のせめぎ合いのなかで“感覚”を掴みつつあったが……。
<続く>

