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“厳しすぎる”養成所生活に悲鳴「もうやめたい…」元プロ野球選手が味わったボートレースの“過酷な現実”「1勝がこんなに難しいのか」初勝利まで8カ月
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曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byKiichi Matsumoto
posted2026/02/15 11:37
ボートレーサー養成所での過酷な訓練。「毎日のようにやめたいと思った」という野田昇吾を支えたものとは
遠かった初勝利「1勝がこんなに難しいのか」
だが、この苦しみが野田の芯を太くしたこともたしかだった。2022年11月3日、ボートレース戸田でのデビュー戦。西武時代の監督である辻発彦氏も応援に駆けつけるなか、野田は初めての実戦を4着で終えた。
「プロ初登板のほうが緊張しましたね」
――大舞台に慣れているから?
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「いや、ボートレーサーになるまでの過程が壮絶すぎて」
それに、と野田は続ける。
「周りは何十年もやってきた選手ばかりで、僕みたいな1年目のペーペーはただただ挑戦する立場だったんで、プレッシャーは感じなかったです」
スタートラインには立った。度胸もついた。だが、結果を伴うまでには至らない。初勝利が遠い。
「正直、1勝がこんなに難しいのかと思いました。2000勝とか1000勝している人を見て、あらためて『やば……』みたいな。ただ、そんな簡単に勝てるわけないのはわかっていたので、あまり気にしてはいなかったです」
焦りがないわけではない。だが、勝利がないなかでも、レースに出ているかぎり収入は担保されていた。野田は「正直ボートレースすごいなって。勝てなくても普通にやっていけました」と新人時代の生活を振り返る。
そして2023年7月9日、待ちに待った初勝利の瞬間が訪れる。決まり手は5コースからのまくり。道中で追いすがる6号艇に詰め寄られながらの、薄氷の1着だった。
「もう、やばいやばいって感じです。さすがに抜かれたくないっていうプライドはありましたし、全然気持ちよく走れてなかった。やっぱ怖かったですね。今は1等走ってるときは楽しく走れてるんですけど、最初はそれどころじゃなかったです」
1勝で喜んでいる場合じゃない――そう自省しながらも、デビュー8カ月での初勝利は野田に“ボートレーサーとしての実感”をもたらした。
「プロ野球でも1勝、1セーブ、1ホールドってなかなか大変ですけど、ボートレースはすべて自力で勝ち取らないといけないぶん、それよりも重いというか、難しいなって。ただ、個人競技は楽な面もあるんですよ。負けても自分、勝っても自分なので」
決して順風満帆ではない。何もかも、野球選手のときのようにはいかない。それでも多くの失敗と小さな成功を積み重ねながら、野田はボートレーサーとしての階段を少しずつ登っていった。


