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「日本に帰ってくるつもりはない」全女・元アイドルレスラーの“知られざる今”…山崎五紀59歳がアメリカで経験した「命懸けの59時間出産」「家族との別居」
text by

伊藤雅奈子Kanako Ito
photograph byShiro Miyake
posted2025/12/30 11:08
立野記代との「JBエンジェルス」でも活躍した元全女プロレスラー・山崎五紀さんのインタビュー(第3回)
「骨が動けば無痛分娩、動かなければ帝王切開」
――プロレスをやっていたときに、ですか?
山崎 そうです。地方巡業から帰ってきたあとって、事務所にファンレターとかプレゼントが、いっぱい届いてるじゃないですか。それを事務所まで取りに行くんですけど、入って右側にあった応接室に、まとめて置かれてたんですね。先輩から順番で取っていくんですけど、私はまだ若手だったから疲れちゃって、しゃがんだら、ドアの太い蝶番の上に思いっきり座っちゃった。そのまま動けなくなって、デビル(雅美)さんとちこさん(長与千種)の肩を借りて、ビューティ(・ペア)のころからずっと診てくださってる先生のところに連れていってもらった。
――ケガの具合は?
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山崎 そのときは折れてるって思ってなかったんだけど、結婚してニューヨークに渡ることになったときに、事前に日本の婦人科に行って、子どもを産めるかどうかなどの、チェックアップをしたんですね。そのときに先生から、「あれ? 骨折したことはあります?」って聞かれて、あのときの衝撃で、骨が上向きに変形していたことを初めて知った。赤ちゃんを産むときって女性ホルモンが働いて、臀部の骨が動くんですって。赤ちゃんは、その骨を押して出てくるんだけど、「この骨が動けば無痛分娩、動かなければ帝王切開になる」と言われた。さらに、私の場合は、背中から続く骨のカーブが浅い男型で、骨盤もせまい。「ニューヨークでこのレントゲンを診せて、どうされるかを相談してください」ということだったんですね。
「終わりかけのマヨネーズを絞りきるみたいに…」
――プロレスの技ではなく、ちょっとした気の緩みのアクシデントが、出産まで尾を引くとは……。
山崎 で、陣痛がはじまって、先生からは、「ちょっとでも(骨が)動いたらヘルプするけど、動かなかったらお腹を切ろうね」って言われてて。そしたら、ちょっとだけ動いたんですよ。ドイツ人のおっきい女の人が、私の脇に来て、台に乗っかって、終わりかけのマヨネーズを絞りきるみたいに、すっごい力でグーーッて押して、産まれてきたのが瑠夏です。
――壮絶な出産劇です。
山崎 無痛分娩だったので、(長男の)武蔵のときには、体感したかったんですね。自分の体から赤ちゃんがどうやって産まれてくるか、感じたかったんですよ。陣痛がはじまって、ナースからは「あと2時間ぐらいでベイビーに会えるわよ」なんて言われたのに、またなかなか出てこない。10時間ちょっとかかった。普通分娩で、いまでもはっきり覚えてます。この世の痛みじゃないですよ。(次男の)飛佑磨のときは、無痛分娩にするための注射が脊髄の神経に当たって、大変だったんですよ。
――脊髄への注射って、想像を絶する痛さだと聞きますが。
山崎 痛いです。座った状態で打たれて、だんだん体が熱くなってきて、体中に電気が走って、飛びあがって、いまでも痺れてますよ。つねってもなにしても、痛くないの。
――それは医療ミスではないですか?
山崎 主人と訴えようかという話になったけど、弁護士さんから「アメリカはドクターも保険に入ってるから、勝つ確率は低いです」と言われて、あきらめました。まぁ、子どもは無事に産まれたんで、それがいちばんかと。

