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《本物を学ぶ1日》“球界のレジェンド”和田毅・鳥谷敬から未来のプロ野球選手を目指す逸材たちに濃密な時間を過ごす中で受け継がれたこと
posted2025/12/25 11:01
今回の講師を務めた和田毅(左)と鳥谷敬
text by

林亮佑(Number編集部)Ryosuke Hayashi
photograph by
Shiro Miyake
強い寒気に覆われた2025年12月12日、明治神宮外苑室内球技場は子どもたちの熱気に包まれていた。2024年に続いて開催された「Number Sports Academy 野球教室 supported by ニップン」。2025年は講師として和田毅、鳥谷敬の両名を迎え、小学校5・6年生の男女32人に、一夜限りのスペシャル指導が行われた。
最初の30分間の座学では、鳥谷が身体づくりの秘訣を伝えた。
「とにかく食べる。今のうちから食べる力を訓練しておくことが大事だから」
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和田も頷きながら、アドバイスを送る。
「僕も中学生の頃まではたくさん食べられなくて、ずっと後悔してる。炭水化物、たんぱく質をしっかり摂ることが大切」
40代までプレーしたスター選手の金言に、子どもたちはじっくりと耳を傾けた。
続く質問コーナーで「練習で意識していること」を尋ねられると、鳥谷は「常に目的意識を持つこと」、和田は「1球目への準備を怠らないこと」について熱弁。その教えを胸に、実技指導の時間が始まった。
キャッチボールでは、和田が身体の動きを実演しながら肘の使い方を指導。
「身体から回すと、肘は自然に前へ出る。そうやって投げれば痛めないから」
ノックでは、鳥谷が現役さながらの華麗な足さばきを披露。守備の心構えを説いた。
「必ず投げることを考えて守る。捕りながら投げる方向へステップすれば、投げる距離も短くなるでしょ。すると、ミスも減る」
ハイレベルな技術指導は、投手・野手で16人ずつ2つのコースに分かれても続く。
投手コースでは、2人ずつブルペンで投げる様子を、和田が後ろでじっと見つめる。「腕の力を抜いて投げないとすぐ疲れる」、「股関節に体重を乗せるイメージで」など一人ひとりに合わせた助言を送ると、見違えるように力強くなったピッチングに、和田は「良くなったよ」と声を掛けた。
野手コースでは、鳥谷が守備でのグラブの使い方やステップワークを指導。続く走塁練習では、ベースランニングを実演しながら「ベースは踏むんじゃなくて蹴る、ベースの角を蹴ってそのまま加速する」と、意識するべきポイントを解説した。
濃密なコース別練習の後は、全員でバッティング練習。鳥谷が右打席でも鋭い打球を放つと、子どもたちは大盛り上がり。バットの握り方やヘッドの使い方、力を伝える方法など、万人に通じる技術を伝授した。
特別なひと時もいよいよ終盤を迎え、最後は全員でサドンデスノックを実施。鳥谷の容赦ないノックを捕って一塁に構える和田へ送球し、エラーすると脱落となる。ラスト2人が手に汗握る大激戦を繰り広げると、室内練球技場は声援に包まれた。
見事ノック王に輝き、鳥谷と和田のサインが入ったボールを手にした廉太郎くん(5年)は「緊張してカチカチになったけど、最後は無意識に身体が動いた。今日はいろんなことを教えてもらって楽しかったです」と、笑みを浮かべた。惜しくも準優勝となるも好プレーを連発した那月くん(5年)は、「今日やったことを意識して、鳥谷さんの守備を超えられるような選手になりたい」と、引き締まった表情で前を見据えていた。
「上手くなりたいという気持ちを持って聞いてくれたのでね、やりやすかったです」
3時間半の指導を終えた鳥谷は、参加者の意識の高さを褒め称えた。
「みんなやっぱり野球が好きなんだなっていうのを感じられて嬉しかったですね」
和田がそう振り返るように、真剣な中でも終始、笑顔を絶えなかった。
「ありがとうございました!」と元気よく帰路につく後ろ姿には確かな充足感が漂っていた。








