第102回箱根駅伝(2026)BACK NUMBER
「これまでの苦労を思えば…」一時はマネージャー転身も考えた山梨学院大学の切り札、弓削征慶が最後の箱根駅伝で狙う後輩への“置き土産”
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小堀隆司Takashi Kohori
photograph byGetsuriku
posted2025/12/16 10:01
2回目の出場となった前回の箱根駅伝5区で区間8位の力走を見せた弓削征慶
諦めずに努力を続けていれば、チャンスは訪れる。2年生の秋、仮想5区として注目のレース「激坂最速王決定戦2023」で他大学の山候補を抑えて2位に入り、一躍、山梨学大の秘密兵器として注目を集めた。
まさにこのレースが陸上競技人生の転機となった。上りの適性を示し、ついに憧れ続けた箱根駅伝の舞台に立った日のことを、弓削はよく覚えている。
「緊張で足が震えました。ただ、10km過ぎから傾斜がきつくなって、ようやく身体が動き出したというか。自分はちょっと緩やかな上りぐらいではダメで、傾斜がきつくならないと調子が出ないんです」
疲れが出る後半で序盤に抜かれた選手を抜き返したのは、上りのセンスが非凡だったからだ。2度目の出場となった前回の箱根駅伝では自身のタイムを56秒更新し、適性が本物であることを見せつけた。
最後の箱根駅伝に向けては、「今年は本当に良い練習ができているので楽しみ」と充実した表情を覗かせる。
「個人的には平地の走力が上がりました。木曜と金曜、それに日曜の朝はアップダウンのところを走っているのですが、それは僕だけじゃなくて全員です。ロードで地道に脚を作ってきた成果が、3年、4年目で出てくるのがうちのチームだと思います」
シード権獲得への決意
陸上競技の真髄は真面目な努力をどれほど長く継続できるかにあるだろう。大崎監督が考案した約26kmの「昇仙峡・愛宕山」コースを週1で走るなど、甲府特有の険しい地形を生かした練習で走力を伸ばしてきた。トラックの持ちタイム以上に、各選手はロードで力を発揮する。今回の箱根駅伝予選会も堂々の3位通過で、全体1位のブライアン・キピエゴ(3年)、日本人トップ争いを演じて10位に入った阿部紘也(2年)、4年生エースの平八重充希ら、前回大会以上に戦力は整いつつある。
たとえどんな状況でたすきを受け取ろうと、それを上位に引き上げるのが弓削の役割である。最後の箱根駅伝への思いを訊ねると、今度は力強い言葉が返ってきた。
「普通に走れば71分は切れると思うので、最後は自分の力を出し切って終わりたい。どれだけ苦しくても、高校、大学と苦労してきたことを思えば、5区の1時間は全然たいしたことないです」
もし5区を70分台で走破すれば、自身の記録をまた1分ほど縮めることになる。前回大会でも4人しかマークできなかったタイムで、チームを救う走りになるのは確実だ。
一方で、弓削は主将としての思いをこう打ち明ける。
「自分は予選会も回避させてもらって、後輩たちにまだ何もしてあげられていない。やっぱ、最後はシードを取りたいですね」
苦労人の主将に導かれたチームが、うまくまとまらないはずがない。持ちタイムでは計れない強さを武器に、10年来遠ざかっているシード校入りを狙う。


