第102回箱根駅伝(2026)BACK NUMBER
「どこよりも距離を踏んできた」目標の『古櫻復活』に向け、過去最高の自信とともに箱根駅伝に挑む日本大学の4年生たちの気概
posted2025/12/16 10:00
山のスペシャリスト、鈴木孔士(左・129番)は前回の雪辱を果たすべく5区に挑む
text by

田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph by
Yuki Suenaga
日本大学は箱根駅伝で5区に苦労してきた歴史が長い。過去には、本来なら2区で走らせたいスピードランナーを5区に起用することもあった。記憶に新しいのは、第90回〜92回大会で5区を務めたダニエル・ムイバ・キトニーである。
しかし今回、その心配はない。鈴木孔士(4年)がいるからだ。ずっと5区を愛し、5区を走るために駅伝を続けてきた男だ。
きっかけは小学5年生のときに見た第91回箱根駅伝だ。当時、青山学院大学の3年生だった神野大地が、軽やかに箱根の山を駆け上がる姿を目の当たりにした。まったく他を寄せつけない、王者の走りであった。
「強烈な憧れを抱きました。それ以来、もし自分が箱根駅伝を走るなら絶対に5区を走りたいと思い続けてきました」
日大に進学してからも常に山を意識してきた。トレーニングでも、箱根駅伝をイメージする時でも。
前回大会でようやく5区を走るチャンスを得た。夢にまで見た舞台。憧れた神野と同じ5区を走ることに高揚感を覚えてスタートを切った。苦しさはあったが、思ったほどではない。もっと走れる、もっと力を出せると思い続けたまま、気づけば往路のフィニッシュテープを切っていた。総合19位で受け取ったたすきをふたつ押し上げたものの、区間順位は15位。不完全燃焼の走りに「悔しいのひと言につきます」と鈴木は振り返る。
「まったく勝負になりませんでした。憧れの5区に向けて準備をしてきたつもりでしたが、結果としてその力を出し切れなかったことは、とても悔しい経験になりました」
収穫もあった。
「平地の区間に比べて、山上りは観客との距離が近くて、一人ひとりの応援の声がダイレクトに聞こえてきます。前回大会でもきつい場面でその声援が背中を押してくれました。応援が走りに直結することを肌で感じたんです」
当然、最後となる今回も5区を熱望。前回のような苦い思いはしたくない。観客の応援の声に応えられるような走りをしたい。願わくば、憧れの神野のように、日本中を沸かせるような走りを見せたい。その一心でこの1年間を過ごしてきた。
「自分はペース配分やタイムを細かく計算するより、ただ前を追うことに集中して、走りの中で感覚を研ぎ澄ませていくタイプ。変に考え過ぎることなく、自分の感覚を信じて限界ギリギリの攻める走りをします」
主将として臨む最後の箱根駅伝
その鈴木の走りからたすきを受け継ぎ、復路で「古櫻復活」を掲げるチームを後押ししたいと考えるふたりがいる。主将の中澤星音と副将の大仲竜平(共に4年)である。
中澤と大仲は昨年、3年生で主将と副将という役職についた。理由は当時人数が少なかった4年生に、走りに専念してもらうためである。
苦しい台所事情があったとはいえ、任された主将。中澤はチームをどうやって鼓舞していけば良いかを考え、常にチームのことを考えて行動してきた。だが、昨季は疲労骨折で箱根駅伝予選会、そして本選も出走は叶わず。今年に入っても肺気胸を患うなど、出遅れが続いていた。走りでチームを引っ張れないもどかしさはあったものの、まずは身体を走れる状態に戻すことに専念。長期離脱をしないよう身体のケアをしながら少しずつ練習に復帰した。その後、夏合宿でようやくチームに合流し、本格的なトレーニングに取り組めるまでに回復した。


