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野ボール横丁BACK NUMBER
「なんでこんな人が二軍におんの?」ドラフト3位でロッテ入団、田村龍弘がプロ初日に感じた“絶望”…元・阪神ドラ1の先輩に「一軍はどんだけヤバいの?」
text by

中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/10/29 11:06
千葉ロッテ田村龍弘。2012年のドラフト3位でロッテ入団
「だから、僕はプロでバッティングで勝負しなかったということですね。守備で生きていこうと決めたから、こうやって長くできてるんじゃないですか」
言葉の意味をすぐには呑み込めなかった。田村のことをすぐそばで見続けてきた北條は言っていたではないか。「調子がいいとか悪いとか、ないんです。いつでも打つんです」と。そんな打撃の神のような田村がバッティングを捨てた?
苦し紛れに「そういうことなんですか……」と下手な反応をする。煮え切らないリアクションに田村は苛立ったように言った。
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「じゃないですか。普通に。しかないと思いますけどね」
より正確に言うと、変えたのは「バッティングスタイル」ではなく、プロ野球選手としての根本的な生き方だった。
一つひとつの言葉がずしりと響いた。
「これは僕の経験上ですけど、あきらめられるやつが(プロで)活躍するんですよ。プライドを捨てて。もちろん、ある程度のプライドは必要ですけど。高校とか大学の変なプライドを捨てられずにやってしまって、なかなか芽が出ない選手が多い。名前は出せないですけど、ロッテにもいると思うし。だから、変わらないといけないんですよ」
「僕は諦めて、森はそのまま行った」
ただ、そこまで一気にまくし立てると、田村はふいにある選手の名前を挙げた。
「僕が知ってる限り、高校のときからのスタイルを変えずに活躍しているのは森友哉(オリックス)だと思います。プロに入ってもそのまんま。高校のときは、僕も森もバッティングのレベルは変わらなかったと思うんですけど。僕はあきらめて、あいつはそのまま行った。僕は貫けなかっただけやと思いますけど」
大阪桐蔭の捕手だった森は田村の一学年下だ。二人は小・中学時代は同エリアの野球チーム同士でしのぎを削り、2012年のU18代表でチームメイトにもなった。田村が右打ちで、森は左打ちという違いはあるものの、足を高く上げる打法で、小柄なのに長打力があり、ミート力が抜群で、さらにはいかにも向こう気の強そうな面構えをしている点など、二人はまるで鏡で映し合ったかのように共通点が多かった。
もし、貫いていたら? そう尋ねると田村の心は小さく揺れた。
「もしかしたら、もう終わってるかもしれないし、もしかしたら、高校のときみたいに打ててたかもしれない。可能性は低いかもしれないですけど。でも、打てている自信はないですけどね、正直」
間を少し置き、田村はもう一度、仮定と否定を繰り返した。
「……だから、まあ、もう一度やり直すとしたら、プロに入って、高校のときのまんまやってみたら、どうだったのかなと思ったことは何回もありますけど。でも守備で生きていこうと決めて、ここまでやってこられたので後悔はしてないですけどね。ぜんぜん」
「キャッチャーは好きじゃない、ほんまです」
田村の入団1年目、監督が西武の黄金時代を支えた名捕手の伊東勤に代わり、同時にコーチとして元中日のレギュラー捕手だった中村武志が入団。田村は二人にとことん鍛えられたのだという。

