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「胸が痛いです」藤井聡太が19、23歳で経験“タイトル戦トラブル”将棋界も無関係ではない大災害「東日本大震災時の立会人だった」元A級棋士が語る 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph by日本将棋連盟

posted2025/10/01 06:00

「胸が痛いです」藤井聡太が19、23歳で経験“タイトル戦トラブル”将棋界も無関係ではない大災害「東日本大震災時の立会人だった」元A級棋士が語る<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

藤井聡太七冠が6連覇を達成した王位戦では、台風15号による対局場変更というアクシデントが起きた

 確率的に低いとはいえ、巻き返された側は精神的に重いものである。しかし永瀬は「藤井さんは勝負の流れを気にしていない。一局ごとに対局に集中している」と語った。藤井はどんな状況でも、精神的にぶれないというのだ。確かにそれが藤井の強さでもある。

 王位戦第6局の戦型は角換わり腰掛け銀。先手の藤井は銀交換して仕掛けたが、その数手後に永瀬は自陣に、藤井は中段にともに銀を打って守った。藤井は中盤で角を中段に打つ意表の一手を放った。ただ以降の使い方が難しい。永瀬は敵陣に角を打って馬を作った。その後、飛車交換の展開となり、飛車を敵陣にともに打って攻め合った。難解な形勢に思えたが、永瀬に誤算があったようだ。藤井は難解な寄せ合いを制して勝ち、4勝2敗で王位6連覇を果たした。

 藤井は終局後の記者会見で次のように語った。

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「番勝負は一局一局という気持ちで臨みますが、3連勝から2連敗して流れが悪いと感じました。そういう気持ちを振り払うために、今まで以上に盤面に集中しました。新会館の特別対局室で2日間じっくり指したことで、自分にとってなじんだ感覚がありました」

21年王位戦でも佐賀で大雨「心が痛いです」

 7月から9月に行われる王位戦七番勝負は台風シーズンに重なる。以前にも似た例があった。

 2021年8月18、19日。藤井王位(当時19)に豊島将之竜王(31)が挑戦した第62期王位戦の第4局は、佐賀県嬉野市の旅館が対局場だった。しかし九州の北部は停滞する前線によって記録的な大雨となり、各地に土砂崩れや浸水の被害が生じた。佐賀県にも避難指示が発令された。対局場は無事だったが、対局者や関係者の移動が難しい。

 そこで主催者が協議した結果、対局場は大阪・福島の関西将棋会館に変更された。藤井は16日に同会館で対局し、豊島は関西に在住していた。両対局者は佐賀県の関係者に「大変な準備をしてくださっていただけに胸が痛いです」とお見舞いのコメントを出した。

 王位戦第4局は藤井が勝ち、第5局も勝って4勝1敗で防衛した。

じつは王将戦も悪天候に見舞われやすい

 1月から3月に行われる王将戦七番勝負は大雪などの悪天候に見舞われやすい。

 1994年2月24、25日。谷川浩司王将(31)に中原誠前名人(46)が挑戦した第43期王将戦第5局は、青森県三沢市のホテルが対局場だった。

 中原と関係者の一行は、23日に羽田空港から三沢空港に向かった。しかし三沢空港は大雪で着陸できず、羽田空港に引き返す事態となった。一方の谷川は関西から別便に乗り、三沢の対局場に無事に着いていた。

 そこで主催者が協議した結果、各8時間の持ち時間を5時間に減らし、25日に初の1日制で行うことを決めた。

【次ページ】 東日本大震災から3日後の王将戦…立会人の記憶

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