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「僕に資格はない」レッドブル・チーム代表に苦言を呈された角田裕毅が、献身的なレースで信頼を取り戻すまで
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尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images / Red Bull Content Pool
posted2025/09/26 11:02
アゼルバイジャンGP決勝レース後、固い握手を交わすフェルスタッペンと角田
それから2週間後のアゼルバイジャンGPで、角田の前に再びローソンが立ちはだかった。前を走るローソンが5番手で、角田は6番手。その差1秒を切る2人のテール・トゥ・ノーズの戦いはレース後半の41周目から始まった。
アゼルバイジャンGPの舞台であるバクー・シティ・サーキットはメインストレートが2km以上あり、決してオーバーテイクが難しいコースではない。だが、前を行くローソンは最高速重視のセットアップを施し、角田がDRSを使用してもストレートで追い抜くまでには至らない。
「チャンスがなかったわけではありません。あそこまで迫っていたら、当然アドレナリンが出て、絶対にオーバーテイクしてヒーローになりたいという気持ちもありました」
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しかし、角田はその欲望を捨てた。それは、この日の角田はローソン以外とも戦わなければならなかったからだ。
チームのために角田がとった最善策
レースはポールポジションからスタートしたフェルスタッペンが独走。そのフェルスタッペンとドライバーズ選手権を争っているオスカー・ピアストリ(マクラーレン)は早々にリタイアし、選手権2位のランド・ノリス(同上)が角田の背後の7番手にいた。さらにその後ろの8番手と9番手にはレッドブルとコンストラクターズ選手権争いをしているフェラーリ勢2台も連なっていた。
最高速で角田より速いローソンを抜くには、リスクを冒さなければならない。さらに角田がローソンを抜くのに成功すれば、失速したローソンをノリスもオーバーテイクしてくるはず。そうなると、結果的にマクラーレンに1つ上のポジションを与えることになる。
ならば角田がローソンの後ろでノリスとフェラーリ勢を抑え続ければ、フェルスタッペンとチームはランキング上位との差を詰めることができ、得るものは大きい。
果たして、角田はローソンの1秒以内にとどまってDRSを使い続け、ノリス以下にオーバーテイクを許さないディフェンシブな戦いを選択した。
「オーバーテイクできなかったのは残念ですが、リスクを冒してマクラーレンに先行を許してしまったら、レッドブルにとってはかなりの痛手です。このレースで最も重要だったのはレッドブル・ファミリーの2台が一緒にマクラーレンの前でフィニッシュすることでした」
レースはイタリアGPに続いてフェルスタッペンが優勝。角田はノリスとフェラーリ勢2台を抑え続けて、6位でチェッカーフラッグを受けた。
レース後にガレージ前で行われた記念撮影会で、チームは6位のボードを掲げて殊勲のドライバーを温かく迎えた。角田はフェルスタッペンと固く握手して、再び最前列に戻ってきた。

