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「私の一番のアンチは私なんです」“キッズファイター”のイメージを超えたAZM(22歳)の今…渡辺桃戦後の涙の理由「初めて“悔しい”って言いました」
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橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2025/09/15 17:04
2025年の5★STAR GPで準優勝を果たしたAZM
「褒められるのはいつも桃でした」
桃が初めて練習場のシーザージム新小岩に「現れた」時のことから、AZMはよく覚えている。
「褒められるのはいつも桃でした。運動神経がよくて凄くうらやましかった。努力してることも知ってるから、認めるしかない存在で。子供の頃に知り合って、いつの間にか大人になって、みんなが目標にする舞台(決勝)に立つことができたのが嬉しかった。
でも本当は、今の渡辺桃と闘うのを喜んでちゃいけなかった。嬉しいと思ってしまった自分が嫌ですね。気持ちが優しすぎるというか、甘かった。自分の弱さを見てしまった気がして、それが悔しかったです」
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AZMと桃はプロレスラーとして同じような“育ち”だ。練習生としては当時スターダムのGMだった風香のもとで基礎を身につけ、QQでは紫雷イオ(現WWEのイヨ・スカイ)の薫陶を受けた。
「師匠的な人が2人いて、どっちも共通してるんですよ」
だから意識するし、実力的に充実期にあるからこそ、自分の“甘さ”に悔いが残ったという面もある。実際、試合内容は一進一退。技巧、頭脳、体力あらゆる面で一級品の攻防が展開されていた。彼女たちと同じ世代のスターライト・キッドは、こんな感想を聞かせてくれた。
「これだけ選手がたくさんいる今のスターダムだから、最近はあんまり生え抜きのプライドとかこだわりは言ってなかったんです。でもベスト4、それに決勝を見たら“やっぱり生え抜き凄いな”って」
「私の一番のアンチは私なんです」
AZMは5★STAR GPで、7年連続で賞を獲得している。殊勲、敢闘、技能の三賞とベストマッチ。今年はベストマッチに加え準優勝のトロフィーも。
「賞はコンプリートしたんです。ただ……」
こういう時に「でも優勝してない」と考えてしまうのだとAZMは言う。リーグ戦での受賞もハイスピード王座最多防衛も、すべては過去の話。「過去の栄光にすがりたくない」と。成し遂げていないことばかり意識するから「自分のことが好きじゃない」とまで。
「私の一番のアンチは私なんです」
AZMはよく“天才”と言われる。なんでもできるしセンス抜群で、確かにその表現がふさわしいように見える。だが本人は「みんなにそう言ってもらえて、なんとか自分に自信が持てるんです」。あまりにも意外な“天才”の胸中だった。


