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「あの頃は『自分は全然ダメだ』と思いこんでいた」最強世代に挑み続けた卓球天才少女・加藤美優“休養中”のいま「猛勉強で宅建の資格を取得」
text by

石井宏美Hiromi Ishii
photograph byKeiji Ishikawa
posted2025/09/06 11:00
現在競技を休養中の加藤。趣味や資格、パラ卓球代表コーチの仕事など、現状を語ってもらった
強者揃いの日本女子卓球界で、激しい競争にさらされ続けるのは日常茶飯事だった。
当時は自分が全然ダメだと思いこんでいた
もちろん、その中で加藤も「あの試合に勝ちたい」「あの大会に出場したい」「〇位になりたい」と目標に向かって着実に歩み続け、努力も怠らなかった。
だが、厳しい競争の第一線で戦い続ければ続けるほど、どこか自分に物足りなさを感じていたと振り返る。
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「今はあの時の自分ってすごく頑張っていたなと思えるんですが、当時はそれにまったく気づけなかったですね。何をやっても『全然ダメ』だと思いこんでしまっていて。全然努力できていないし、何もできていないと本気で考えて自分を追い込んでいました」
練習の質にも量にも、細部までこだわった。それでも納得できなかったのは、2000年生まれの最強世代を始めとする、分厚い壁の存在が大きかったのかもしれない。
「どうしても自分よりも強い選手のことばかりが見えてしまって、その選手に比べると自分は本当にダメだなとネガティブになってしまって。もちろん周りから比較されることは仕方のないことだし、より上を目指すためにはそういった選手を上回らなければならないことも理解しているんですけどね。でもそうしているうちに自己肯定感は低くなってしまって」
何度も「休養」という文字が頭をよぎった。それでも加藤が歩みを止めることはなかった。
「結局は試合に出たいという気持ちが勝るというか、出るしかない、頑張るしかないという選択肢しかない状況を、頭のなかで勝手に作りあげていた、作りあげられていたんだと思います。そこで勝つしか道が残されていない……どこか強迫観念に近いものがあったかもしれませんね」
何年も迷った「休養」の選択。だが、そういった環境の中で、自分には競技生活を含め、今後の人生をどう進んでいくのかを考えるための時間が必要だと悟ったのだという。
猛勉強で宅建の資格を取得
充電期間を設けた加藤は、自身の競技のトレーニングはほとんど行わず、卓球の普及活動や講演に力を入れてきた。趣味の一つでもある海外旅行でリフレッシュ。自由な時間を楽しむ一方で、資格の取得にもチャレンジした。
「もちろん、資格を取ったからといって、それを主体にとは考えていないんですが、将来的に必要になると思ったので、宅建(宅地建物取引士)の資格を取ったんです」
実は昨年、不動産取引の専門家であることを証明する国家資格を取得。1日平均2時間、試験2カ月前からは6時間近く、ときには1日中机に向かっていたこともある、というほど猛勉強した。これと決めたらやり遂げる集中力には、すさまじいものがある。

