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甲子園の風BACK NUMBER
「今度は自分がアイツを甲子園に連れていく」夏の甲子園“ある優勝候補校”「投げられなかったエース」と「新たな背番号1」…2人の投手の絆秘話
posted2025/08/08 11:00
夏の甲子園で優勝候補の一角に挙げられる兵庫の東洋大姫路。一方で、春までのエースはケガの影響から県大会で投げることができなかった
text by

沢井史Fumi Sawai
photograph by
JIJI PRESS
はちきれそうな体格を包み込んだユニホーム姿がベンチで際立つ背番号10。
最速147キロの速球を武器とする阪下漣は、今夏の県大会では主にベンチワークに徹し、精力的に動いていた。攻守交代時の道具を運び、飲み物を渡す。インプレー中はベンチから大きな声で仲間を鼓舞する。
だが、決勝までの7試合でマウンドに向かうことはなかった。
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1年春からベンチ入りし、2年生だった昨夏は主戦級にマウンドに立った。昨秋の地区大会、県大会序盤はケガで出遅れたものの、近畿大会は全4試合に登板し、力のある速球を巧みに操り、2試合連続完封を含む21回2/3連続無失点をマークするなど無双状態で、チームとしても17年ぶりに秋の近畿大会を制した。
センバツの注目株が…エースに起きた悲劇
今春のセンバツでは注目投手の1人として、その躍動に期待されていた。
だが、初戦の壱岐(長崎)戦で、先発するもストライクが入らずいきなり2点を失った。1回を投げ切るとそのまま降板し、以降はマウンドに立つことはなかった。
大会前の練習から、実は違和感を覚えていたという。阪下は当時の状況をこう振り返っていた。
「練習で、もっと良いフォームで投げようとしていたら徐々に違和感を覚えるようになって」
何かが違うと思いながらも、何とかなるだろうという気持ちにもなった。
だが、診断の結果、右肘の靭帯が断裂していたことが分かる。春の県大会、近畿大会はベンチから外れ、治療に専念する中で、阪下はある決断も下さなければならなかった。
「春、甲子園で悔しい思いをして、その後に手術するのか保存療法にするのか、どちらか悩ましかったんですけど……保存療法を選びました」

