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武居由樹の“伸びる左”がアゴを直撃「当日3キロ重かった…タンクのような体」敗者ユッタポンはなぜ一撃で崩れ落ちた?「バンタム級に異変」衝撃KOウラ側
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/05/29 17:05

WBOバンタム級王者の武居由樹は同級8位の挑戦者ユッタポンを127秒で一蹴。「もう1本くらいベルトほしいっすね」と発言し会場を沸かせた
デビューからの3試合以来となる初回KO勝ちだった。武居は「野性味を取り戻せたか」と質問されると、「取り戻せたと思います、少しは」と笑顔で答えた。
負傷に減量、パワフルな挑戦者…試合前にあった懸念
BUNTAIの観客を爽快な気持ちにさせる勝利だったが、戦前にここまでの快勝を予想したファン、関係者はどれだけいたことだろう。武居には不安要素があった。1月に予定されていた試合を延期する要因となった右肩のけが、そして減量である。
武居のけがは右肩関節唇損傷と呼ばれるもので、当初は手術も検討されたが、保存療法で復活を目指した。治療とリハビリをへて4月には思い切りパンチを振り抜けるまでになったが、やっかいなけがであり、不安がゼロになったわけではなかった。
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減量は武居に常につきまとう難問だ。もともとスーパーバンタム級を主戦場とし、バンタム級ウエートで戦ったのは昨年5月、タイトルを獲得したジェーソン・モロニー(豪)戦から。大橋会長も武居の減量を気にかけていた。
加えて対戦相手のユッタポンが不気味だった。身長が武居より10cm低く、タンクのような体をジワジワと前進させるスタイルはスピードを感じさせないもののパワフル。武居を3キロ上回る62.3キロという当日体重は、パワーで武居を封じようという意思の表れとも感じられた。
何よりあのタイ人らしいゆったりとしたリズムは、武居をして「キックボクシング時代から苦手」と言わしめるもの。ガードを固めてのらりくらりと攻撃を無効化し、打ち終わりに重いパンチを打ち込んでしぶとくゲームを運ぶ。武居が思うようにペースをつかめず困惑する姿も想像できたのである。
しかし、右肩は予想以上の回復を見せた。けがをしている間に左のパンチを磨くこともできた。減量もうまくいき、八重樫東トレーナーは「前回の試合と減量が少し違って、特にリカバリーは100点に近いくらいだった。今回はいけると思った」と試合前から手ごたえを感じていた。