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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「井上尚弥vs中谷潤人」をぶち壊せるか? 28歳西田凌佑「負けると言われたほうがいいですね」一度は大手企業に就職…“奇妙な世界王者”の正体
text by

曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/05/30 11:07

記者会見で中谷潤人との統一戦への意気込みを語る、IBFバンタム級王者・西田凌佑(28歳)
「意図はないんですけど、無意識に……。実績も、実力も、自分より上っていうのは素直に思っているところなんで。まあ自然と、挑戦という言葉が出ましたね」
淡々とした口調で、西田は会見での「挑戦」発言について説明した。よく晴れた日だった。午前10時の陽光が磨りガラスの窓を明るく照らしている。
穏やかな雰囲気と控えめなトーンに流されてしまいそうになるが、聞き逃がせない言葉があった。実績はともかく、実力も自分より上? 統一戦とはいえ、世界王者がここまで明確に対戦相手を格上と認めていいものなのだろうか。
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「そのほうがやりやすいんです。何も失うものがないって気持ちで挑めるので。負けたらどうしようじゃなく、勝ってやるぞと自然に思える。中谷選手が有利って言われても、まあ、そうだろうなって」
転機となる試合はいつも“Bサイド”
10戦10勝2KOの西田と、30戦30勝23KOの中谷。試合数では3倍の、KO率に至っては4倍近い開きがある。本人も認めるように、多くのファンや識者が中谷の勝利を(それも、鮮やかなKO勝ちを)予想しているであろうことは否めない。しかし元世界王者など玄人筋の間では「西田は侮れない」とする声があるのも事実だ。そう水を向けると、西田は「そう言われるのはあんまり……。負けると言われているほうがいいですね」と苦笑した。
思えば、西田がそのキャリアのなかで重要な勝利をあげたとき、試合前の立ち位置は常にBサイドだった。プロ3戦目の大森将平戦、4戦目の比嘉大吾戦、そして世界王座を奪取したエマヌエル・ロドリゲス戦。いずれも下馬評では不利とされながら、リング上で予想を覆した。一方で、IBF王座の初防衛戦となった2024年12月のアヌチャイ・ドンスア戦は、7回KO勝ちを収めたものの「内容は悪かった」と反省を口にしている。
プロ10戦10勝の世界王者でありながら、本命ではなく伏兵として輝くボクサー。なぜ、この奇妙な“ねじれ”が生まれたのだろうか。