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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「あんなダウンしたのに平気な顔で…」井上尚弥を“苦しめた敗者”カルデナスが語る8R死闘の真実「KOされたが楽しかった」
text by

杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byNaoki Fukuda
posted2025/05/26 17:01
井上尚弥を相手に健闘をみせたラモン・カルデナス。人生を変える一戦で感じたモンスターとの差とは?
――試合後、井上は「カルデナスは映像で見ていたよりも強かった」と何度か繰り返していましたし、周囲の私たちにもそう見えました。それだけの力が出せた理由はどこにあったのでしょう?
RC 私は大きな舞台で力が出せるボクサーだと自負している。強い選手と対戦した時、より大きな力が引き出される。逆に力が劣るボクサーとの試合では、その相手に合わせてしまうところがある。今回は真の強敵と拳を交えたがゆえ、考えていた通りの力が出せた。モチベーションも高かったがために、あれだけの戦いができたのだろう。最後はレフェリーにストップされ、負けてしまったが、周囲のみんなに「素晴らしい試合だった」「イノウエがあんなふうに戦ったのはこれが初めてだ」と言ってもらえた。この試合で、私自身も自分の力に改めて自信を持つことができた。
――世界中を驚かせた第2ラウンドのダウンについて話して下さい。あの左フックは練習し、狙っていたパンチだったのでしょうか?
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RC ジムでの練習を見た人なら、私があのパンチを打つのを見てきたはずだ。左フックでイノウエを捉える練習をずっと積んできた。長くボクシングを続けていると、自然な形でパンチが出て、当たるかどうかがわかるようになるもの。だからああいった形でヒットすることは想定内だった。パーフェクトなタイミングのパンチだったと思う。
――初回終了後のインターバルで、ジョエル・ディアス・トレーナーが「顔面でもボディでもいいから左フックを打て」と指示を出していました。その通りに遂行したということですね。
RC まさにその通り。自然に打てるようになるまで練習し、あそこではうまく当たったということだ。
「私は右利きだが、左パンチの方が強い」
――リングサイドから見ていても、かなりの威力を感じました。あなたは右利きですが、あの左フックの強さはどう手に入れたのでしょう?
RC 仰る通り、私は右利きだけど、左パンチの方が強い。これまでもずっとそうだったが、もともとの理由はわからない。実は以前、ウェイトコントロールのクリニックに参加したことがあったんだけど、その時に測ってもらったら、身体の左側の方が体重が重かった。普段の生活では完全に右利きなのに、不思議ではある。
――ダウン直後、井上は効いていたと思いますか?
RC 間違いなくあのパンチで効いていたと思う。(昨年5月の)ルイス・ネリ戦でダウンを喫した時、イノウエは片膝をつき、冷静に準備を整えていた。立ち上がった時には、「もう大丈夫だ。戦おう」という感じに見えた。それが私のパンチを浴びた後は、両膝をつき、一生懸命自分自身を取り戻そうとしていた。同じノックダウンでもダメージにかなりの違いがあったはずだ。
――あなたのマネージャーのマイケル・ミラー氏は、「一つ残念だったのはあのダウンが2回終了間際に起こったことだ」と話していました。同じ思いだったのでしょうか?
RC もしも時間が残っていたら、今の私の立場は違ったものになっていたかもしれないとは考える。今では私が4団体統一王者だったかもしれない。ただ、実際にはあれが起こったのはラウンド終了間際だった。神には違う考えがあったということ。今回はそういう運命だったということなのだろう。



