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「正直やばいかも…」井上尚弥が2度目の被弾「リングで死ぬ覚悟がある」挑戦者カルデナスとの“あまりに濃密な一戦”を元世界王者が斬る!
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byHiroaki Finto Yamaguchi
posted2025/05/09 18:25

ラスベガスで行なわれた井上尚vs.ラモン・カルデナスの一戦のポイントを元世界王者・飯田覚士氏が徹底解説した
飯田は言う。
「8ラウンドが始まったとき、驚きましたよ。カルデナス選手はまたガードを固めてきて、ジャブを単発では出さず、2、3発続けて出していました。これも1発のジャブなら合わされるからという井上対策。1ラウンドからやっていたことを、また再びやり始めたんです。気合いを入れ直してきたことは十分すぎるほど伝わってきました。でも尚弥選手からしたら見切り終わっているし、仕留めるポイントで仕留め切ってストップに持ち込んだのはさすがだと言えます。レフェリーのストップは順当。カルデナス選手が何か盛り上げるシーンはつくったとしてもおそらくクリーンヒットはないでしょうから。ダメージを溜める結果にしかならなかったと思います。
あの7ラウンドもそうですが、競り合いのなかで尚弥選手は絶対に競り勝とうとするんです。疲れがあったら呼吸を整えるラウンドをつくってもいいのに、彼は明確にそれをやらない。8ラウンドだって相手が最後の力を振り絞ってきたら、かわすんじゃなくてスピードとパワーを使って封じ込めてしまう。自分がどう見られているか、自分をどう見せなきゃいけないか。その使命感みたいなものがそうさせているとは思います。ダウンを奪われたことでボクシングファンのなかには『衰えたんじゃないか』という声があるとも聞きます。でも僕からしたら、2階級上のスーパーフェザー級でも試合を重ねてきて想像を超えるほどの耐久力と闘志、技術を兼ねそなえたカルデナス選手とのあまりに濃密な一戦にしっかり勝ったことで、さらに崩しにくいチャンピオンになるんじゃないかっていう期待感しかありません」
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スリリングな試合展開は本場ラスベガスのファンを熱狂させた。それ以上に、井上尚弥自身が楽しそうだった。試合後のリングでマイクを向けられ「殴り合いが好きだと証明できた。楽しかった」と実に晴れ晴れしい表情で述べているのが印象的だった。
カルデナスは腰を引くことなく真っ向から勝負に挑んだ。その挑戦者との高度な駆け引きに拳を交えながら、心を躍らせていたに違いない。井上尚弥にとって「あまりに濃密な」最高のラスベガスの夜だったはずである。
<第1回から続く>
