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「50キロ以上の体重差」でも…角田夏実と阿部一二三の“体重無差別”挑戦はなぜ熱狂を生んだ? 軽量級人気選手のコメントに共通した“ある言葉”
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松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJIJI PRESS
posted2025/05/02 17:04
無差別で行われた柔道の全日本女子選手権、全日本選手権で話題を集めた角田夏実と阿部一二三
阿部と角田のコメントに共通した“ある言葉”
角田もまた、似たような言葉を試合後に口にしている。
「オリンピックより緊張しているかも、という瞬間がありました。やっぱり私って柔道が好きなんだ、と思いました」
両者はそろって、「柔道が好き」だと感じたことを明かしている。
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自分の階級でどれだけ実績を挙げていたとしても、無差別で行われる大会に軽いクラスから臨めば、立場は挑戦者になる。挑戦することがアスリートの本能だとも言うが、挑戦する立場だからこそ、楽しめただろうし、好きだとあらためて発見することができたのだろう。格闘技でも珍しい、無差別というカテゴリーのもたらす効用でもある。
そして挑戦する姿の楽しみは、観る者にとっても同様だ。しかも柔道には「小よく大を制す」「柔よく剛を制す」という言葉に代表される魅力がもとからある。世界の頂点を極めた両者の挑戦が注目を集めた理由にほかならない。
実は全日本女子選手権では、昨年の世界ジュニア選手権の代表だった19歳、57kg級の白金未桜が決勝に進んでいる。優勝はならなかったが、その活躍もまた、柔道の魅力を体現するものだった。
かつて古賀稔彦は“155キロの相手”に勝利した
振り返れば、過去にも無差別の大会ならではの魅力が発揮されたことがある。
1990年の大会では、のちの1992年バルセロナ五輪71kg級で金メダルを獲得する古賀稔彦が出場した。大会に出た選手の中では最も軽い76kgで挑んだ。
古賀は、重量級の選手を次々に撃破する。準々決勝では155kgの相手に勝利し、準決勝でも108kgの相手を破り決勝に進んだ。相手は前年の世界選手権95kg超級及び無差別級2冠の小川直也。193cm、130kgの小川を相手に7分過ぎに一本負けを喫した。敗れてなお、古賀強しと思わせたが、のちに自著で古賀はこう記している。
「『よく決勝までいった』『惜しかったな』『頑張ったな』と、多くの人が声をかけてくれました。しかし自分としては、すごく恥ずかしい気持ちで一杯でした。ぶざまな試合をしてしまった」
健闘してなお、敗れたことを悔いる。本気で挑んでいたことの表れでもある。

